【クオール】調剤薬局業界のM&Aの波を生き抜く

alt

 2013年3月22日、茨城を中心に栃木、群馬の3県に23店舗を展開している地場大手チェーン調剤薬局が子会社化された。売上高48億、営業利益1.5億、純資産4.9億円という対象会社に対し、全株式で40億円という大きなプレミアムを付けた価額での取引が行われた。

 調剤薬局業界は、一般的に業界再編・集約化が行われやすいといわれる小売業の中でも今まさに業界再編の最中、という業界である。そのため、他業種よりプレミアムは付きやすい傾向にあるのは事実である。とはいえ、これほど大きなプレミアムを付けた取り引きは過去になく、業界内でも大きな話題となった。これが、メディパル傘下で関東圏に特に強く展開している、クオール<3034>によるアルファーム買収劇だ。

 非常にドラスティックなM&Aを行ったクオールの沿革と、その戦略をひもとく。

■クオールの行った主なM&A

年月 内容
1992.10 調剤薬局の運営ならびに医薬品の販売を目的としてクオール設立
2006.4 大阪証券取引所「ヘラクレス」(現JASDAQ)市場に株式を上場
2006.10 福聚(東京都、9店舗運営)の全株式取得、子会社化(価額非開示)
2006.11 第一メディカル(東京都)の全株式取得、子会社化(価額非開示)
2007.3 ビー・エム・エル(東京都)から調剤薬局事業(6店舗)を10億1800万円で事業譲渡
2007.10 エーベルと合併
2008.12 ローソンと業務提携
2009.2 特例子会社 クオールアシスト設立
2010.2 メディカル一光と業務・資本提携
2010.2 テイオーファーマシー(香川県、21店舗)およびテイオードラッグ(香川県、4店舗)の全株式取得(価額非開示)
2010.6 本社を東京都新宿区四谷より東京都港区虎ノ門に移転
2011.12 東京証券取引所市場第二部に株式を上場
2012.8 ジェイアール西日本デイリーサービスネットと業務提携
2012.8 ローソンと資本提携
2012.10 人材派遣のアポプラスステーション(東京都)の全株式を取得(0%→100%、約32億円)、子会社化
2012.12 東京証券取引所市場第一部に株式を上場
2013.4 会社分割(新設分割)による中間持株会社、クオールSDホールディングス設立
2013.4 アルファーム(茨城県、23店舗)の全株式を取得(0%→100%、約40億円)、子会社化
2013.8 連結子会社のレークメディカル(滋賀県)を株式交換により完全子会社化(出資比率55.56%→100%)
2014.3 セントフォローカンパニー(茨城県、33店舗)の株式取得(52.14%)、連結子会社化(価額非開示)
2014.7 ココカラファインと業務提携
2014.10 連結子会社のセントフォローカンパニー(茨城県)を株式交換により完全子会社化(52.14%→100%)

 クオールの初めてのM&Aは、都内を中心に薬局9店舗を運営している福聚の案件であった。

 福聚は、直前期の06年3月期決算において、売上高17億円、営業利益1億円と良好な体質を持つ会社であり、クオールが強く展開している首都圏内において、都内6店舗、神奈川県・千葉県・宮城県にそれぞれ1店舗ずつ展開しており、ドミナント形成上よい戦略が取れると判断した。

 同時に、同社の100%子会社である医療総合研究所は、医療モールの運営を行っており、自社が運営するモール内に医療機関を誘致し、医療機関のサポートを行うとともに、同モール内にて自社の薬局を展開する事業を行っており、このノウハウ獲得も副次的な目的となっていた。

 クオールは続いて第一メディカルを買収する。第一メディカルが行っているのは、いわゆるメディカル関連の学術・販促資材の製作や、編集および出版といった事業であった。このノウハウと、クオールが培った患者・処方元の視線に立った薬の知見、この2つの融合を行うことが目的であった。

 これにより、製薬会社が現在内製しているこういった印刷物の領域に進出することができるようになった。

 続いては事業譲渡で、東京都で臨床検査などを行うビー・エム・エルの薬局事業(6店舗)を譲り受ける。取得した店舗は千葉県1店舗、富山県2店舗、石川県2店舗、新潟県1店舗と、飛び地ではあるがこれにより、北陸地域に進出することができるようになった。なお、譲り受けた部門の売上高は11億円、営業利益が1億3000万円、譲り受け資産が3億円に対し、譲り受け対価は10億円。営業利益の約5年分ののれんを付けている。地域進出は続き、周辺地区にて計25店舗を運営する香川県の調剤薬局、テイオーファーマシーおよび、テイオードラッグの全株式を取得、子会社化を発表した。

 また、2012年8月にはかねてより業務提携関係にあったローソンからの資本を5%程度受け入れた。ローソンとの関係性は、08年12月の業務提携から始まり、具体的な協業例としては、調剤薬局併設型コンビニエンスストア15店舗や、病院内におけるコンビニエンスストア6店舗などが挙げられる。

 現状、コンビニエンスストアと調剤薬局の併設店舗運営をしている他社の例としては、ファミリーマートとファーマライズがあるが、新業態であり顧客の利便性を満たすよいサービスではある。しかし、在庫管理の難しさ、薬剤師の人数の不足・単価などの都合による対応力の欠如など、法的緩和の措置がなければ営業ラインに乗せることは難しい模様である。

 続いて12年10月、薬剤師・看護師・保健師など医療関連人材派遣紹介事業を行うアポプラスステーション(東京都)の全株式を取得した。同社は、MRの派遣などを中心とした医薬品の営業およびマーケティングの受託事業であるCSO事業に、国内で初めて取り組み始めた企業である。

 これは、クオールの主力である調剤事業に加え周辺事業への進出、非調剤事業の再構築および増強を目的としていた。アポプラスステーションは、投資ファンドであるJ-STARが株式の59.5%を保有しており、経営成績としては、売上高52億円、営業利益1.5億円、総資産額は23億円。対してクオールの譲渡対価は32億円である。

 そして冒頭に書いた、アルファームの買収劇がある。財務状況は上記の通り、売上高48億、営業利益1.5億、純資産4.9億円。13年当時の類似した上場企業におけるEV/EBITDA倍率平均はおおよそ5.5倍程度であったことを鑑みると、かなりのオーバーバリューに思える。

 しかしながらクオールの戦略上、対象会社の出店地域、出店数を考えると絶対に獲得しなければならず、競合会社に取られてしまった場合、非常に取り返しづらいディスアドバンテージを持つことになっていた。

 当時のクオールは、関東圏に強く店舗網を広げており、関東圏内で店舗数首位を目指すため新規出店を重ねていた。アルファームは関東圏内に23店舗を運営しており、本件を取り逃がすと自社出店では賄うには出店計画も併せると多大な時間・人員を要することとなり、目標が大幅に遠のいてしまう。

 結果からすると他社を退け、子会社化に成功したわけだが、業界内で伝え聞いた話では、他社の入札額と2倍近い差をつけていたとのこと。このM&Aの結果、既存の出店計画と合わせると関東圏において調剤薬局業界トップの店舗数を築く流れとなった。

「M&Aは時間を買う」というのは月並みな表現であるが、殊に小売業においては、出店に当たっての立地調査および計画、人員の差配、金銭の準備など、1出店1出店ごとに時間とリスクが付きまとうことになる。クオールの行ったアルファームの買収劇は、数字のみで判断するとオーバーバリューであるが、諸般の事情を鑑みると必要な資金投下だったと思われる。

■業績と残務状況の推移

 クオールの自己資本比率は一見すると比較的低い水準で推移しているが、類似業種を見てみるとアインファーマシーズの自己資本比率(2015/4期)は42%、日本調剤の自己資本比率(2016/3期)は20.6%と低めの数字を出している。これは業種上の特性のようなもので、両企業ともクオールと頻繁にM&Aでの入札争いを繰り広げることが多く、借入にて賄うことがままある。

 案件によりけりだが、調剤薬局は店舗の土地建物を対象会社で抱えていることも少なくなく、そうすると対象会社にレバレッジをかけて買収するLBOというスキームも取りやすい。また、ドミナント形成をなしたのちは、株価も高騰しエクイティによるファイナンスも行いやすくなる。借入を起こし買収することは、成長の加速要因につながるのだ。例のごとく、アルファ―ム買収劇による対価の40億円は、全て金融機関からの借り入れで賄った。その資金は、13年5月、エクイティファイナンスにより34億円を調達し、全額返済へと充てた。

 クオールのM&A手法は、調剤薬局業界に訪れているM&Aの波を象徴するようなものが多いと言える。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部