英語で proper(プロパー)というと、「適切な、適当な」という意味を最初に覚えさせられた気がしますが、外来語としての「プロパー」は日本語として定着しているものの、少しニュアンスが違うようです。
例えば、「彼はXX企業のプロパーで」とか、「彼女はお金持ちだからプロパー買いですよ」と言ったりします。前者は「正式な(他から移ってきた人ではない)出身の人」、そして後者は「バーゲンとか並行輸入物でない正規価格」を言っているようです。
かつてコンピューター翻訳が登場したころ、「適当にやっとけば」という訳を、「Why don't you do it properly?」と表示されて、おや?と思ったことがあります。
副詞の properly は「適切に、適当に」という意味ですが、今や日本語の「適当にやる」というのは「ぞんざいにやる」、「杜撰(ずさん)にやる」という意味になっていますね。
「適当に」という用語の意味が「適当に」ではなくなっているのですが、こういう現象は、言語の歴史にはよくあることで、例えば certainという語も、「或る」という意味と「確実な」という一見矛盾した意味がありますし、フランス語の sans doute は文字通りには「疑いなく」なのに、実際は「おそらく」という意味で使っています。こういうのは「意味の磨耗」であると言えるでしょう。ちなみにIT業界ではpropertyを「属性」と訳したりします。
さて、前置きが長くなりましたが、英語の proper は、ラテン語からフランス語経由でもたらされた語で、proprius 本来は「自身の、固有の」という意味でした。これに抽象名詞をつくる語尾 -ty がついたのが property で、本来は「財産、資産」という意味です。
propertyは、金融業界では「不動産」「所有権」の意味でも広く使われており、複合語では、fixed property(固定資産)、private property(私有財産)、intellectual property(知的財産権)など、枚挙に暇がありません。
この property とそっくりの姉妹語に、propriety(礼儀正しさ、適切さ)があります。その名詞 proprietor(所有者、経営者)、proprietary (所有者の)の方は、本来の意味を色濃く残しています。
接頭辞 ad- はポジティブな意味を含みますから、appropriate は「妥当な、適した」という良い意味で使われます。ところが名詞のappropriation は「専有、流用、横領」とあまり良いイメージはありません。
また、少し難しい語ですが expropriate というと「強制的に買い上げる」という意味になります。接頭辞の in- は否定の意味ですから、improper は「妥当でない、不適切な」という意味になります。名詞形は impropriety(不適切さ)です。かつてビル・クリントン元大統領の「不適切な関係」は、「inappropriate relationship」と報道されていました。
文:猪浦道夫・天宮徹也(共同執筆)/編集:M&A online編集部