香港投資ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの傘下で、経営再建中のパイオニア(東京都文京区)が、デジタル地図や位置情報サービスを手がける子会社のインクリメント・ピー(東京都文京区)の全事業を、投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループ(東京都千代田区)に売却することになった。売却金額は公表していないが、300億円程度と見られている。
パイオニアは2020年に、米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の主導でパイオニアから分割独立(2015年)したDJ・クラブ機器メーカーの最大手Alpha Thetaの全保有株式(保有割合14.95%)をノーリツ鋼機<7744>に売却(KKRが保有する85.05%の株式と合わせたノーリツ鋼機の取得金額の合計は350億円)している。
今回の子会社売却で経営再建が一段と加速することになりそうだ。
インクリメント・ピーは、パイオニアのカーナビ向けの地図データ開発を目的に1994年に創業した企業。カーナビ向けのほか、幅広い顧客に地図や位置情報サービスを提供している。
IT・ソフトウエアサービスに対する経験が豊富なポラリスの傘下に入ることで、より幅広い用途に向けた地図データや関連サービスの開発などに取り組むことが可能になるという。
一方、パイオニアはモビリティー(移動)分野の事業拡大による企業成長を目指しており、インクリメント・ピーの売却後も、両社は最重要パートナーとして地図データの開発や提供で協業していく。
また、パイオニアは2025年に向けた新企業ビジョンを制定し、未来の移動をより安全で快適、スマートなものに変える取り組みを展開しており、年内にはパイオニアの持つ音の技術とカーエレクトロニクスの技術を組み合わせた安全・快適な車内空間を提供する、新しいサービスプラットフォームの構築を目指す。
パイオニアは1937年に国産初のダイナミックスピーカーを開発した創業者が、翌1938年に福音商会電機製作所を創業したのが始まり。1961年に社名をパイオニアに変更し、同年に東京証券取引所市場第二部に上場した。
その後、レーザーディスクプレーヤーやGPSカーナビなどを次々に発売し業容を拡大したが、プラズマテレビ事業の失敗などをきっかけに業績が悪化。2019年に自力再建を断念し、香港投資ファンドのベアリング・プライベート・エクイティ・アジアの傘下に入った。
最重要パートナーと位置付けるインクリメント・ピーを手放すことで、経営再建を加速させる判断を下したパイオニアだが、果たしてこの施策の成否はどうだろうか。
年 | パイオニアの沿革 |
---|---|
1937 | 国産初のダイナミックスピーカーを開発 |
1938 | 福音商会電機製作所を創業 |
1947 | 福音電機を設立 |
1961 | パイオニアに社名を変更 |
1961 | 東京証券取引所市場第二部に上場 |
1968 | 東京証券取引所市場第一部に指定替え |
1980 | 家庭用レーザーディスクプレーヤーを米国で発売 |
1990 | 世界初のGPSカーナビを発売 |
2014 | ジェイ・エム・エスに医療用レーザ血流計の出荷を開始 |
2016 | 医療用電子聴診器の出荷を開始 |
2019 | 香港投資ファンドのベアリングの傘下に |
2019 | 東京証券取引所市場第一部の上場を廃止 |
2020 | Alpha Thetaの全保有株式(保有割合14.95%)を売却 |
文:M&A Online編集部