株式を取得しようとするとき、その会社の経営に関与したいなら「株式保有割合」に着目する必要があります。株式保有割合とは、会社の発行済株式総数のうち、どのくらいの株式を持っているかという比率です。「持株比率」ともいわれます。
会社法では、株式保有割合が高い株主ほど強力な権利が認められています。例えば、会社法第303条から305条では株主の意思を経営に反映するための株主提案権など、第308条では議決権の数、第309条では株主総会の決議について規定されています。
実は株式保有割合には、大きく分けて「発行済株式ベース」と「議決権ベース」という考え方があり、両者は大きく意味合いが異なります。
今回は「株式保有割合」の意味と株主の権利の関係について、解説します。
会社が発行する株式には、普通株式のほかにも、いくつかの種類があります。今回着目するポイントは「議決権」が認められるかどうかです。
「議決権」とは、株主が株主総会決議において賛成表や反対票を投じる権利をいいます。株主の議決権は通常、1株ごとに1つの議決権が与えられています。これを「一株一議決権の原則」といい、資本多数決を採用しています。
一般的な普通株式には議決権が認められている一方、議決権のない株式も存在します。例えば、以下のような株式です。
〇議決権のない株式
・自己株式 | 会社が自分で保有している株式 |
・単元未満株 | 1単元(100株)に満たない株 |
・優先株式 | 配当優先株式など |
・議決権制限株式 | そもそも議決権を与えられていない株式 |
議決権があれば自分の意思を会社の運営に反映できますが、議決権がなければ株式を持っていても会社経営に関与できません。株式を取得するときには「議決権が認められるかどうか」にも着目してみてください。
次に、「発行済株式ベース」と「議決権ベース」という考え方について解説します。
「株式保有割合」という場合、以下の2種類の意味があります。
発行済株式ベース
会社が発行しているすべての株式における、保有株式の割合です。議決権のある株式だけではなく、自己株式や議決権のない株式も含めて計算されます。
たとえば発行済株式数が1万株の会社において、議決権のある普通株式を3,000株持っていたとします。この場合、「発行済株式ベース」で計算すると、株式保有割合は10分の3(1万分の3,000)となります。
議決権ベース
議決権のある株式に限定した株式保有割合です。たとえば発行済株式総数が1万、そのうち議決権のない株式が1,000株、議決権のある株式が9,000の会社があるとしましょう。この場合、議決権のある株式を3,000株持っていたら、その人の株式保有割合は3分の1(9,000分の3,000)となります。発行済株式ベースでは10分の3ですが、議決権ベースではそれより大きくなります。
実際に株主の影響力を検討する場合、発行済株式ベースではなく議決権ベースの数字が重要です。
さて、会社法では、株式保有割合に応じて株主に株主総会決議で意思決定する権利が認められます。保有割合が高くなるほど大きな権利を得られるのです。
・3分の1以上で特別決議の成立を阻止できる
株式保有割合が3分の1以上になると特別決議の成立を阻止できます。特別決議の成立には3分の2以上の賛成が必要だからです。
・過半数で普通決議を成立
株式保有割合が過半数になると、単独で普通決議を成立させられます。
・3分の2以上で特別決議を成立
株式保有割合が3分の2以上になると、単独で特別決議を成立させられます。
・3分の2以上で特殊決議の成立可能性も
株式保有割合が3分の2以上になると、特殊決議を成立させられる可能性が高まります。(特殊決議を成立させるには、それだけではなく株主の過半数の賛成も必要です)
上記の株主決議に関連する「株式保有割合」は、すべて「議決権ベース」の比率です。自己株式、議決権のない株式は含みません。議決権のない株式を多数持っていても、実際には意思決定に参画できないので意味がありません。
分母も議決権ベースとなります。株式保有割合を計算するときには、「議決権のある発行済株式総数」を分母「議決権のある保有株式」を分子として数字を出しましょう。
議決権の割合が重要になってくるのは、株主総会の場面だけではありません。連結子会社の判定など会計の場面でもよく問われます。
「持株比率」「持株割合」「出資比率」「出資割合」「保有比率」「保有割合」・・・など似たような用語が出てくるとき、さらっと流さずに何を意味しているのか考えてみましょう。今後「株式保有割合」を目にしたら、自己株式や議決権制限株式を省いた「議決権ベース」を基本に計算してみてください。
文:福谷 陽子(法律ライター)