相次ぐデータ改ざんはオーバースペックの反動か

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噴出した「品質不正問題」

 2017年は品質不正問題で不祥事が相次いだ。10月には日産自動車<7201>が法律で定められている完成検査を無資格の従業員が実施したことが判明。スバル<7270>にも「飛び火」した。同月には神戸製鋼所<5406>がアルミや銅製品、鉄粉などの品質データを改ざんしていたことが明らかになった。翌11月には経団連会長企業である東レ<3402>子会社の東レハイブリッドコードや、三菱マテリアル<5711>子会社の三菱電線工業でも品質検査データの改ざんが発覚している。

 いずれも「名門企業グループ」で起こった品質不祥事だけに、「日本のモノづくりが危機に瀕している」と大きく報じられた。確かにその通りだ。「高いけれども高品質」がセールスポイントだった日本製品にとって、大きなイメージダウンになるのは間違いない。だが、悪いのは品質不正を起こした企業だけなのだろうか?

時代遅れの完成検査

 たとえば日産で問題になった完成検査だが、実施されるのは国産車のみで輸出車では実施しない。それもそのはず、検査内容は「ハンドルの遊び・がた」「エンジンのかかり具合」「ライトの点灯状況」など。完成検査で引っかかるような不具合は新車を陸送車や運搬船に積み込む時か、最悪でもディーラーが納車前に気づくからだ。しかも、完成検査員の資格も国による基準はなく、企業の裁量に任されている。

 実際、生産現場からは「無資格の検査員と正規の検査員で検査のクオリティーが変わるとは思えない」との声が上がっている。日産の法令違反は非難されるべきだが、自動車メーカーの品質管理が不十分だった時代ならばともかく、すでに形骸化した検査を義務づけている国の対応にも問題はあった。

「品質はタダ」の日本的慣行が不正を生む

 神戸製鋼や東レハイブリッドコード、三菱電線工業などの品質検査データの改ざん事件では、ほとんどの顧客企業が早々と「安全性に問題なし」との安全宣言を出している。そうなると「そもそも買い手側の品質要求は適正だったのか」という疑問が浮かんでくる。実は「日本企業の品質要求は過剰だ」との指摘は、以前からあった。

 かつて日本企業と取引があった外資系部品メーカー幹部は「日本のメーカーは品質はタダだと思っている。必要のないような高スペックを低コストで要求してくる。安全性に問題のない通常品質で価格を引き下げるか、最高水準の高品質を追求するために価格を引き上げるしかないのに」と苦言を呈する。この外資系部品メーカーは品質と価格で折り合わず、日本メーカーとの取引には至らなかったという。

 しかし、国内メーカーとの取引が多い国産部品・素材メーカーにとっては死活問題だ。渋々でも引き受けざるを得ない。とはいえ価格が上がらないのであれば、生産コストを上回るような高品質の部品を安定供給できないのは当たり前だ。顧客企業が現実的でない高品質目標の設定と調達価格の引き下げを「ごり押し」した結果が、一連の品質データ改ざん問題の原因といえる。特に素材や部品を購入する側の最終製品メーカーは大型M&Aで価格交渉力が圧倒的に強くなっており、こうした「ごり押し」に拍車をかけている。

品質はタダではない
品質はタダではない Photo by nanapomerc

M&Aによる価格交渉力強化も

 もちろん、不正を行った企業の責任は重大だ。行政や顧客企業に「無駄な検査は廃止すべき」「この価格では指定の品質は担保できない」と正面から問題提起し、基準を見直してもらうか高品質を維持できる価格で契約すべきだった。「実用上の安全性には何の問題もないから」「交渉が面倒だから」という逃げの姿勢が、いずれ大きなトラブルにつながることは肝に銘じておくべきだ。グローバルなM&Aを実施して企業規模を拡大し、最終製品メーカーとの価格交渉で優位に立つ必要もあるだろう。

 それにしても同じような品質不正問題を起こしても、大手メーカーのトップが「原因究明とコンプライアンス(法令順守)の立て直しは現経営陣の責任」と居座るのに対して、東レハイブリッドコードや三菱電線工業といった子会社のトップが「安全性に問題なし」とされているにもかかわらず「原因究明とコンプライアンスの立て直しを急ぐために経営を刷新する」と即座に更迭されている。この違いは何なのか?なんとも後味の悪い幕切れだった。

文:M&A Online編集部