オリックスは「金融」と「モノ(物件)」を両輪に事業領域を縦横に広げてきた。リースから始まり、投融資、銀行、生命保険、不動産、資産運用、環境エネルギー、自動車関連、球団経営まで多方面に及ぶ。祖業であるリースが金融とモノの融合ビジネスそのものだったことが同社のその後を決定づけたといっていい。類を見ない業態に変ぼうを遂げた同社だが、そのアクセル役を担ってきたのは積極的なM&A戦略にほかならない。
オリックスが5月9日に発表した2018年3月期連結決算(米国会計基準)は営業収益(売上高に相当)が前期比7%増の2兆8628億円、当期純利益が同15%増の3131億円と増収増益だった。当期純利益は4期連続で過去最高益を更新した。不動産と海外事業が苦戦したものの、太陽光発電など環境エネルギー事業の拡大、関西国際空港や伊丹空港の運営を手がけるコンセッション事業が主な増益要因となった。
企業の収益力を判断する重要指標の一つ、ROE(株主資本利益率)は12.1%と5期連続で2ケタを達成しており、小島一雄副社長は「中期的な目標の11%を確保できている」と胸を張る。
同社の事業は法人金融サービス(融資、リースなど)、メンテナンスリース(自動車リース、レンタカー、電子機器などのレンタルなど)、不動産、事業投資、リテール(生命保険、銀行、カードローン)、海外の6つのセグメントで構成する。このうち全売上の約半分を占めるのが事業投資で、環境エネルギー、プリンシパル・インベストメント(PI。自己資金による投資)やサービサー(債権回収)、コンセッション(公共施設などの運営)などを主力業務とする。
オリックスは東京五輪が開かれた1964年、日本のリース黎明期にオリエント・リース(1989年、現社名に変更)として発足した。リースの持つ「金融」と「モノ」という両面の専門性を積み上げる中で、リースに隣接する事業分野に進出し、そこからさらに隣接する分野に展開するという形で事業を多角化してきた。例えば、自動車関連。機械類のリースを手がけているうちに社用車のリースへと扱いが広がり、保険や車検の仕事が開けてくるといった具合だ。
現在、「金融」という側面では法人金融、生保、銀行、事業投資など、「モノ」という側面では自動車、測定機器、航空機、船舶、不動産などがコア事業として発展した。日本のリース会社の中で最も早く海外進出したのも同社で、1971年の香港から始まり、現在約40カ国・地域に拠点を展開する。
金融でもなく、商社でもない…。一つの業種に括りきれないほど事業の幅が広がった。オリックスの社名は独創性を意味する「ORIGINAL」と柔軟性や多様性を象徴する「X(無限大)」を組み合わせたもので、今日の姿を予言したかのようだ。
〇主な業績項目(単位は億円)
17.3期 | 18.3期 | |
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営業収益 | 26,787 | 28,628 |
当期純利益 | 2,737 | 3,131 |
セグメント資産 | 89,569 | 90,173 |
<内訳> | ||
・法人金融サービス | 10,322 | 9,619 |
・メンテナンスリース | 7,525 | 8,182 |
・不動産 | 6,577 | 6,202 |
・事業投資 | 7,687 | 8,477 |
・リテール | 32,916 | 31,745 |
・海外 | 24,542 | 25,947 |
2018年3月期の新規投資総額は約7400億円で、前期(約6000億円)を2割強上回った。環境エネルギーは、米国で地熱発電事業を手がけるオーマット・テクノロジーズ(ネバダ州)に約710億円を出資(株式の22%を取得)し、国内でメガソーラーなどへの追加投資を実施。米国で地方債、商業用不動産担保証券(CMBS)の債券投資を活発化したほか、航空機68機を購入するなど現物投資も推進した。
M&A案件では2017年9月、高齢者住宅を中心とする不動産ローン組成や債権回収を行う米ランカスター・ポラード(オハイオ州)を買収した。買収額は非公表だが、数百億円とされる。住宅用不動産金融関連の企業買収は2010年のレッド・キャピタルグループ(オハイオ州)、2016年のボストン・フィナンシャル・インベストメント・マネジメント(マサチューセッツ州)に続き、米市場での足場を強固にするのが目的だ。
今年1月には受変電設備レンタルの業界最大手、淀川変圧器(大阪市)を買収した。グループ会社のオリックス・レンテックを通じて、投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループが保有する同社株式のすべてを約200億円で取得し子会社化した。受変電設備のレンタルは鉄道、トンネルといったインフラ建設、工場・ビルの設備更新などの際にニーズがあり、2020年の東京五輪に伴う関連需要を見込んでいる。
「オーガニック(既存事業の成長)に加え、新規投資、M&Aに積極的に取り組む。世界中にアンテナを張り巡らせ、良い案件を発掘する」。井上亮社長・グループCEO(最高経営責任者)は基本スタンスをこう語る。重点分野と位置づけるコンセッション事業では、新たに神戸空港の運営権を取得し、関空・伊丹との関西3空港の一体運営が4月にスタート。空港以外では、浜松市公共下水道終末処理場の運営が同じく4月から始まった。
資産の入れ替えも順調のようだ。2017年10月、首都圏でマンション向けに電力を一括購入して安く販売する事業を手がけるオリックス電力(東京都)を関西電力に譲渡した。売却額は約170億円。スリランカで40年近い業歴を持つリース子会社なども売却した。「マーケット環境や成長を十分検討したうえで、事業の価値がピークと判断すれば、躊躇なく売却することが株式価値を向上につながる」(井上社長)と明快だ。
同社の自慢の一つが会社設立以来、初年度を除き、53年間黒字を続けてきたこと。2008年のリーマンショックによる金融危機は米国で積極展開していた不動産事業を直撃し、信用不安が取りざたされる場面もあったが、資産の圧縮や事業の入れ替えで乗り切った。
局面転回を印象づけることになったのが2013年。オランダの大手銀行ラボバンク傘下の資産運用会社ロベコ(現オリックス・コーポレーション・ヨーロッパ)を約2500億円で買収した。同社は欧米を地盤とする世界的な資産運用会社で、オリックスにとって過去最大のM&A。オリックスは長年、リース事業などを軸にネットワークを築いてきたアジア・中東で年金資産運用に照準を合わせた。同社海外部門の主軸の役割を担う。
続く2014年にはオリックス生命保険を通じて、米保険大手ハートフォードの日本法人ハートフォード生命保険を916億円で買収した(翌年に吸収合併)。ハートフォードは2000年に日本に進出し、貯蓄性の高い変額個人年金保険などを扱っていたが、リーマンショック後の運用環境の悪化で2009年以降新規契約の取り扱いを停止していた。
オリックスは1991年に生保事業に進出。当初はリース顧客向けに保険を提供していたが、2006年に一般個人市場に本格参入し、医療保険「CURE(キュア)」の取り扱いを開始。CUREシリーズはシンプルで手ごろな保険料が受け、インターネット販売でも先行し、同社の看板商品に成長した。ただ、旧ハートフォード生命とのシナジー創出という点では途上にあると言わざるを得ない。
2014年にはもう一つ大型M&Aがあった。会計ソフト大手の弥生(東京都千代田区)を約800億円で買収した。同社は「弥生会計」シリーズなどで知られ、登録ユーザーは中小企業や個人事業者を中心に120万件(当時)。法人金融サービス部門の収益に寄与している。
グループ内で異色の存在ともいえるのは大京<8840>だ。産業再生機構の支援で経営再建中だった同社に2005年に資本参加。その後、2014年に持ち株比率を31%から64%に高めて連結子会社化した。「ライオンズ」ブランドの同社はかつてマンション分譲トップを誇った。経営健全化が進展しており、「出口戦略」として今後、売却のタイミングが模索される可能性がある。オリックスの6つある事業区分で大京は不動産部門ではなく、事業投資部門に属することがそうした見方に拍車をかけている。
オリックスの“顔”といえば、宮内義彦氏だ。京セラ創業者の稲盛和夫氏、日本電産創業者の永守重信氏らと並ぶ「平成」を代表するカリスマ経営者で、行政改革や規制緩和の論客として知られる。宮内氏は同社設立時の13人のメンバーの1人。1980年に社長に就任し30年以上経営トップを務めた。創業50周年の2014年に会長兼グループCEOから新設のシニア・チェアマンに就いたが、社内外での存在感は別格とされ、同氏の去就も注目される。
フィンテック、IoT(モノのインターネット)、自動運転車…。時代の大きなうねりの中で、オリックスの事業の幅と奥行きがどう広がりを見せていくのか、引き続き要ウオッチだ。
年 | 主なM&A |
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1964 | オリエント・リースを設立(89年にオリックスに社名変更) |
1986 | 茜証券に資本参加(95年、オリックス証券に社名変更) |
1988 | 阪急ブレーブス(現オリックス野球クラブ)を買収 |
1995 | オリックス証券がマネックス証券と合併 |
1998 | 山一信託銀行を買収(現オリックス銀行) |
2003 | ジャパレンを買収(05年にオリックス自動車に統合) |
2004 | 富士カントリー倶楽部(現オリックス・ゴルフ・マネジメント)を買収 |
2005 | 調布自動車学校を買収 |
2006 | 米投資銀行のフーリハン・ローキーを買収 |
2010 | 米のローン・サービシング会社レッド・キャピタルグループを買収 |
米のファンド運営会社マリナー・インベストメント・グループを買収 | |
2013 | オランダの資産運用会社ロベコを買収 |
2014 | ハートフォード生命保険を買収 |
マンション大手の大京を子会社化 | |
2015 | インドネシアのオートローン会社シナル・ミトラ・スパダン・ファイナンスを買収 |
2016 | 米のファンド組成・運用会社ボストン・フィナンシャル・インベストメント・マネジメントを買収 |
ブラジルの資産運用会社RBキャピタルを買収 | |
会計ソフトの弥生を買収 | |
2017 | 米のローン組成・債権回収のランカスターポラードを買収 |
2018 | 受変電設備レンタル最大手の淀川変圧器を買収(1月) |
文:M&A Online編集部