iPS細胞を利用した角膜移植で眼科治療に革命 セルージョン <慶応大>-大学発ベンチャーの「起源」(85) 

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セルージョン(東京都中央区)は慶応義塾大学発の眼科再生医療ベンチャー。同大医学部卒の羽藤晋社長が2015年1月に設立した。同学部眼科学教室の榛村重人特任教授から研究支援を受け、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から角膜内皮代替細胞「CLS001」を効率的に作り出す特許技術をベースに、ドナー不足による「角膜移植難民」の解消を目指す。

ドナー不要の角膜移植を目指す

角膜は眼球の最前部にある透明な組織で、水疱性角膜症や円錐角膜、細菌・ウイルス感染症、角膜白斑、角膜変性症、ジストロフィー、外傷などの病気やトラブルで白く濁ってしまうと視力の低下や失明のリスクがある。現在、最も有効な治療法が角膜移植だ。

角膜には血管が入り込んでいないため、他の臓器移植と比べると拒絶反応が起こりにくく、血液型のマッチングなしで移植できる。移植手術の技術的ハードルは、内臓などに比べると低い。しかし、問題は角膜を提供するドナー不足だ。日本角膜移植学会によると、日本国内で2014年度の移植希望登録者1万883人に対して、角膜を提供する献眼者は927人で移植件数は1476件にとどまった。

同社はiPS細胞から角膜内皮細胞と同等の機能を持つ角膜内皮代替細胞を作り、同細胞を眼内に注射器で注入して角膜の後面に移植すれば、角膜移植が必要な水疱性角膜症に対する有効な代替治療法になることを突き止めた。同社の治療法が確立すれば、角膜内皮代替細胞を大量生産・凍結保存ができ、移植までの待機期間を大幅に短縮できるという。

さらに施術も角膜内皮代替細胞の懸濁液を注射で眼球内に注入して移植する「細胞注入療法」で、現行の角膜移植と比べると傷口が小さく、合併症を大幅に減らせるメリットもある。施術もそれほど複雑でなく手術も短時間で済む。侵襲も低く患者の負担も軽い。

第三者由来のiPS細胞を使っても問題はないため、通常の医薬品と同様に医療現場に届けることができる。 開発は2022年から医師主導による臨床研究の段階に入っており、2027年に実用化する予定だ。

技術の先進性や眼科医療への貢献度の高さから、同社は外部からも高い評価を得ている。2023年6月にはシリーズCファイナンスで東京大学エッジキャピタルパートナーズやDBJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、Gemsekiなどから、28億3000万円の資金調達に成功した。同8月には科学技術振興機構(JST)の2023年大学発ベンチャー表彰で「文部科学大臣賞」を受賞している。投資家のみならず、政府からの期待も大きい大学発ベンチャーだ。

文:M&A Online