大学発ベンチャーの「起源」(71) カナルウォーター

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建設現場などで作業員の熱中症予防が急務になっている(写真はイメージ)

カナルウォーター(長野県茅野市)は、公立諏訪東京理科大学発の健康機器開発ベンチャー。同大大学院工学・マネジメント研究科の博士後期課程を修了した小須田司同大客員准教授が2021年4月に創業した。

温度センサーで熱中症を事前に警告

同大工学部でセンサー工学を研究する橋元伸晃教授と共同で、ヘルメットに取り付ける小型センサーを利用して熱中症のリスクを感知するシステムを開発した。同社は同大と共同で実証実験を実施し、2023年度から装置レンタルなどの事業を本格的にスタートする。

同システムは、送風ファン付きヘルメットの空気の入口と出口の2カ所に温湿度センサーを内蔵。測定した頭部の発汗量から、全身の発汗量を推定する。熱中症の可能性がある発汗量を検出したらランプが点灯し、休息と水分補給を取るよう作業者と周囲に警報を発する仕組みだ。

スマートフォンによる測定データ共有も可能で、ネット回線を通じて現場から離れた企業の管理部門や産業医もリアルタイムで作業員一人ひとりの状況を把握できるという。

小須田社長は1985年に諏訪精工舎(現セイコーエプソン)に入社。運動中の脈拍などを計測するアスリート向けのスマートウォッチや、手首、腕、頭部などに装着する健康機器の開発に従事していた。2017年に橋元教授の下で、ヘルメット型の発汗量計測機器の研究に取り組む。2021年3月に退職して、カナルウォーターを立ち上げた。

メーカーで培った「ものづくり力」と大学院の「研究」が合体

小須田社長自身のメーカーでの開発経験を生かし、計測装置は簡素化。現場作業の邪魔にならないように本体重量を約380gまで軽量化している。地球温暖化が進み、建設などの作業現場では真夏を中心に熱中症のリスクが高まっている。

過酷な作業環境が労働者離れを引き起こす要因となっており、採用対策としても熱中症対策は急務となっている。ヘルメットを着用しなくてはならない現場を抱える企業にとっては、実用化が待たれる技術だ。

メーカーでものづくりを担ってきた熟練エンジニアが、大学院で最新のセンシング技術を研究し直してベンチャーを起業した。2022年4月には学内発ベンチャー第1号に選ばれ、同大から支援を受けている。「経験」と「研究」のコラボが創造する新ビジネスに、大学側の期待も大きい。

諏訪東京理科大学で開かれたカナルウォーターの開発プレゼンテーション(同大ホームページより)
諏訪東京理科大学で開かれたカナルウォーターの開発プレゼンテーション(同大ホームページより)

文:M&A Online編集部