大学発ベンチャーの「起源」(68) LQUOM

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LQUOM(横浜市)は横浜国立大学発の量子通信ベンチャー。堀切智之横浜国大准教授の研究室が手がけた光および物質量子系の基礎研究と「JST(国立研究開発法人科学技術振興機構) START事業」の成果をシーズ技術として2020年1月にスピンオフ起業した。

量子コンピューターによる暗号解読を量子通信で防ぐ

処理能力が極めて高い量子コンピューターの登場により、素因数分解問題を利用した高度な暗号技術ですら、データ解読されるリスクが高まっている。IoTや自動運転車、遠隔医療、金融などで高度な情報セキュリティーの確保が求められている。

量子力学に基づく量子通信は、量子コンピューターを駆使しても解読不可能な量子暗号通信や、量子コンピュータ同士を連結して計算能力を増強する分散量子計算といった、量子時代の社会情報インフラとして注目されている。

しかし、不正解読はできないものの、現状では通信距離が数十キロメートルと短いのがネックになっている。そこで注目されているのが、長距離量子通信技術だ。LQUOMは「量子もつれ」という量子の特殊な性質を利用した長距離通信を実現するため、光源や波長変換、周波数安定化、量子メモリーといったコア技術のシステムを実装した量子中継器の開発を進めている。

上場企業や行政ともコラボして社会実装を目指す

これにより数百キロ以上の長距離量子通信を実現できるという。同社の手がける国産量子通信システムが世界に先駆けて標準化されれば、将来のインターネットには必須の技術でもあることから、日本経済に与えるインパクトも大きい。

2021年4月にインキュベイトファンドを引受先とする第三者割当増資により、シードラウンドでの資金調達を実施した。2022年5月には単結晶や光部品、レーザー光源装置、光計測装置といった光学関連製品を開発・製造・販売するオキサイド<6521>と資本業務提携している。

同10月には石川県加賀市と「量子インターネットの社会実装に向けた連携協定」を締結した。加賀市は国の「デジタル田園健康特区」として、健康・医療情報のデータバンク「情報銀行」構築に取り組んでいる。市民の健康や医療情報は極めて機密性が高く、絶対に漏洩してはならない情報だ。LQUOMは加賀市との連携協定を通じて「情報銀行」で量子通信の有用性を検証していく。

ビッグデータの安全な活用やインターネット上での商取引、政府や自治体、企業での情報セキュリティー強化、個人情報の保護など、量子通信の活用分野は極めて多い。LQUOMの技術を生かす場は、今後ますます広がるだろう。

文:M&A Online編集部