大学発ベンチャーの「起源」(64) Chordia Therapeutics

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Chordia Therapeutics(コーディア セラピューティクス、神奈川県藤沢市)は、京都大学発のがん領域に特化した研究開発型バイオベンチャー。武田薬品工業<4502>が研究体制を再編するのに伴い、6人の元同社研究者によって2017年10月に設立された。設立と同時に武田薬品と複数のベンチャーキャピタルから第三者割当て増資による成功している。

武田薬品からスピンオフ、京大と共同研究へ

武田薬品から CDC様キナーゼ阻害薬をはじめとする複数の前臨床アセット(資産)を引き継いだ。臨床向けの開発や抗がん剤候補の前臨床試験に取り組むため、京大院医学研究科腫瘍生物学講座の小川誠司教授との共同研究体制がスタートした。2018年には森下大輔チーフサイエンスオフィサー(CSO)が同研究科次世代腫瘍分子創薬講座の准教授に就任している。

2018年11月に第1段階の治験がスタートしたCLK阻害薬「CTX-712」は、DNAの遺伝情報がmRNAに転写される際に余分なものを切り離して再度つなぎ合わされる「スプライシング」を変化させることによって、がん細胞を死滅させる技術で注目されている。

同薬は二つの遺伝子が同時に抑制されたときに細胞死が起こる「合成致死性」を利用した低分子抗がん剤で、がん細胞だけを確実に死滅させることで高い治療効果に加えて副作用の低減が期待されている。

2022年8月にはMALT1阻害薬「CTX-177(ONO-7018)」のライセンス供与先である 小野薬品工業<4528>が、米国で再発・難治性の非ホジキンリンパ腫や慢性リンパ性白血病の患者を対象にした第1相臨床試験を始めた。

小野薬品と最大498億円の大型契約を結ぶ

Chordia Therapeuticsの創薬パイプライン(同社ホームページより)

高い専門性を持ち、臨床化合物創出の経験が豊富な研究者が在籍している同社への期待は大きい。小野薬品とのライセンス契約では一時金と臨床第1相(P1)試験開始時のマイルストンとして計33億円、その後の開発・販売に応じたマイルストンとして最大498億円を受け取ることになっている。

2019年3月に京都大学イノベーションキャピタル(京都 iCAP)とジャフコをリード投資家とし、新生キャピタルパートナーズ、三菱 UFJ キャピタル、SMBC ベンチャーキャピタル、日本ベンチャーキャピタルを引受先とした第三者割当増資により、約30億円を調達した。

2022年5月には日本グロースキャピタル投資法人と東京大学協創プラットフォーム開発をリード投資家とし、MEDIPAL Innovation 投資事業有限責任組合、新生キャピタルパートナーズ、日本ベンチャーキャピタルなどを引受先とした第三者割当増資により、約40億円を調達している。

同9月には科学技術振興機構 (JST)、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 主催の「大学発ベンチャー表彰 2022〜 Award for Academic Startups〜」で「文部科学⼤⾂賞」を受賞した。世界の巨大製薬企業がしのぎを削るがん治療薬で革新をもたらすユニコーン企業候補として、投資家やファンド、そして国からも注目されている大学発ベンチャー企業だ。

文:M&A Online編集部