大学発ベンチャーの「起源」(60)  HIEN Aero Technologies

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HIEN Aero Technologies(東京都小金井市)は法政大学発の有人ドローンベンチャー。いわゆる「空飛ぶクルマ」の開発に取り組んでいる。正式には電動垂直離着陸機(eVTOL)と呼ばれる超小型航空機で、世界中で開発合戦が繰り広げられている。

大学挙げて「空飛ぶクルマ」を開発

同社の御法川学社長は同大理工学部機械工学科教授で、道路交通の限界を克服するためパーソナルエアモビリティ(立体的に空間を自由に行き来する乗り物)の研究を進めている法政大学大学院アーバンエアモビリティ研究所(HUAM)の所長でもある。

「空飛ぶクルマ」の実現にはさまざまな課題が山積しているが、最も大きな問題は航続距離。バッテリーの高性能化で無人ドローンの航続距離は伸びているが、有人ドローンとなると重量がはるかに重いため最大でも30分程度しか飛行できない。

経済産業省・国土交通省が合同で設立した「空の移動革命に向けた官民協議会」の想定では「空飛ぶクルマ」の想定仕様は機体重量150~500kgで乗員数は1~2人、飛行速度は時速100~150km、航続距離は30~70kmを見込んでいる。

ハイブリッドで航続距離を伸ばす

同社では輸送のニーズから、航続距離で片道100km以上の有人ドローン開発を目標としている。当然、電動では難しいので、自動車で日本の「お家芸」となっているハイブリッドシステムの導入を目指す。欧州メーカー製の灯油を燃料とするガスタービンで発電し、その電力でプロペラを駆動して飛行する。簡単に言えば、電池の代わりに発電機を搭載したドローンだ。

飛行に必要な電力は離着陸時はもちろん水平飛行時も風の強さや向きによって変わるため、リアルタイムで解析してガスタービンの発電量をコントロールするソフトウエア技術がカギとなる。

年内にハイブリッドシステムで飛行する最大積載量25kgの「HIEN Dr-One」を開発。同機の最大速度は時速150kmで、航続距離は150kmを超えるという。2023年4月には貨物輸送や上空からのインフラ点検、危険区域監視などの業務用に発売する。

同社初の2人乗り有人ドローン「HIEN 2」は、2025年に開催される大阪万博でのデモ飛行を目指して開発に取り組む。2030年には6人乗りの「HIEN 6」を「空飛ぶタクシー」として発売する方針という。「HIEN 6」の最大積載量は500kgで、航続距離は300km以上を目指す。実用化すれば本格的な「空飛ぶクルマ」時代が到来しそうだ。

文:M&A Online編集部