KOALA Tech(福岡市)は有機半導体レーザー技術を手がける研究開発型の九州大学発ベンチャー企業。2019年3月22日に設立され、まもなく1周年を迎える若い企業だ。
にもかかわらず、2020年3月18日にBeyond Next Ventures(東京都中央区)やSony Innovation Fund(東京都港区)、QB キャピタル合同会社(福岡市)、田中藍ホールディングス(福岡県久留米市)の 4社から総額 1 億 5000 万円の資金調達に成功。それまでにも1億円を超える資金を調達しており、ベンチャーキャピタルからの注目度が高い。
同社は九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター(安達千波矢センター⾧)が世界に先駆けて研究開発した有機半導体レーザーダイオード(OSLD)技術を実用化するために設立された。OSLDは有機材料を使った発光素子でレーザーを出す技術で、素子の内部にガラスで規則的に並んだ凹凸を作り、この構造で特定の光を増幅してレーザー光を発振する仕組み。
同センターでは2019年6月に、有機レーザー材料として低閾値(いきち)レーザー発振材料であるBSBCzを、積層構造には逆積層型OLED構造を、光共振器には1次2次の混合型DFB構造を、それぞれ利用することにより、世界で初めてOSLDの電流励起発振に成功している。
現行の無機半導体レーザーでは難しかった可視域から赤外域まで任意で設定できる発振波長といった性能に加えて、比較的容易な製法で量産できるためコストダウンが可能で、フレキシブル基板や透明素子などの有機材料の特徴を生かしたデバイスに実装できる次世代のレーザー技術だ。従来の無機半導体レーザーより小型化できるのも強み。
一方で有機半導体レーザーは高抵抗なので、従来のダイオード型のレーザーでは大きな電流をかけると発熱して性能が落ちる。そのため、従来使われているダイオードよりも抵抗が低く、大電流をかけられるトランジスター構造の開発が必要だ。具体的には新材料の開発や薄膜デバイス化とナノ構造制御、有機半導体デバイス物理の確立といった研究課題がある。
OSLDの実用化に成功すれば、⽣体内の特定の物質を検出するバイオセンシングはじめ医療・ヘルスケア、光通信やディスプレーなどのエレクトロニクス分野でレーザー光の利用がさらに広がる。コンタクトレンズ型の超小型ディスプレーなど、まるでSFのような活用法も考えられている。OSLDの応用が期待できる業界は数⼗億円から数千億円の市場規模があり、非常に有望な技術と言える。
国⽴研究開発法⼈新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究プロジェクト、研究開発型ベンチャー⽀援事業/シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化⽀援(STS)にも採択されるなど、公的機関からの支援も手厚い。「生まれたて」の大学発ベンチャーだけに、今後の成長が期待されている。
文:M&A Online編集部