大学発ベンチャーの「起源」(59)  ウィック・バイオテック・ファーマ

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ウィック・バイオテック・ファーマ(鹿児島市)は、鹿児島大学発の創薬ベンチャー。がんを標的治療するウイルス医薬の開発と遺伝子治療の基盤技術を確立するため、小戝健一郎同大医歯学総合研究科教授をはじめとする研究者たちが2010年4月に設立した。

ウイルス医薬と遺伝子治療で画期的ながん治療薬を開発

がん治療薬の開発は、創薬業界でも主要テーマの一つ。遺伝子を薬として用いる遺伝子治療は、将来の先端医療に用いられる技術として1990年代から臨床試験が実施されている。従来の研究では、細胞に遺伝子を導入する遺伝子治療薬のベクター(運び屋)として「非増殖型ウイルスベクター」が用いられていた。同ベクターの安全性は問題がないものの、期待されたほどの治療効果は得られていないという。

そこで注目したのが、がんのみに特異的に増殖する「制限増殖型アデノウイルス(CRA)」を利用したウイルス療法。しかし、同ウイルスの安全性と治療効果はいまだ完全ではなく、効率的な標準化作製技術も確立されていないこともあり、その能力を完全に引き出せていない。

同社はCRAの問題点であるがん特異性(がん細胞だけを攻撃し、正常細胞は攻撃しない特異性)の向上と作製技術の確立のために、多因子による精密ながん特異化や自由な治療遺伝子導入が可能となる次世代CRA(m-CRA)を標準的に作製できる基本技術の開発に取り組む。こうしてm-CRA作製技術を確立させ、がん治療薬の臨床応用開発が進むことになる。

同社は標準化技術の作製により可能となったオーダーメードm-CRA受託作製事業を通じて、遺伝子治療技術の普及と独自のm-CRAがん治療薬の実現に向けた事業展開に取り組んでいる。同時に難病治療のための遺伝子・ウイルス治療、再生医療などの革新的治療技術の開発も進めている。

現在、力を入れているのが、ほとんどのがん細胞で特異的に高発現する「サバイビン」という遺伝子に着目したSurv.m-CRAの臨床応用。これまでの研究で、がんの治療効果と特異性の両面にわたってSurv.m-CRAが優れていることを証明した。今後こうした独自技術を利用した受託作製事業を確実に進め、先端医療での応用を目指す。

文:M&A Online編集部