大学発ベンチャーの「起源」(58)  ワープスペース

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ワープスペース(茨城県つくば市)は、筑波大学発の宇宙ベンチャー。2016年に設立され、前身となる大学衛星プロジェクトを含め、これまで3機の通信衛星を打ち上げた実績がある。同大の亀田敏弘准教授が社長として陣頭指揮をとり、民間としては世界初となる衛星間光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」の実現を目指す。

ブライダルサービスで話題に

同社は2018年、結婚記念プレートを超小型衛星で宇宙に届けるサービスを開始し、話題になった。これは地元のオークラフロンティアホテルつくばと提携し、同ホテルで披露宴を挙げたカップルの名前やメッセージなどを刻んだ純チタンの小型プレートを同社が開発した10cm角の超小型人工衛星に積み込み、宇宙に放出する。

申込者には宇宙へ放出された瞬間の写真を届ける。一見、話題づくりのビジネスのようだが、実はこのサービスは同社の新事業のテストでもあるという。将来は電子部品を放出して宇宙空間での機能を確認する実証実験などに結びつく「次の一手」でもあるのだ。

2022年1月には宇宙空間での光通信サービスの実現につながる、月と地球を結ぶ通信システムの実用化に向けた検討業務を国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受託した。

世界初の衛星光通信ネットワーク、実現に近づく

同社が開発を進めている「WarpHub InterSat」は地上400~1000kmの低軌道を周回する小型の人工衛星が、それより高い中軌道を回る中継衛星3基を介して地上局と通信する仕組み。このリレー技術を応用し、月探査ロケットとJAXAを高速大容量の光通信で結び、より精密な観測や分析が可能になる。

すでに通信衛星は地球の低軌道上を多数周回しているが、海や砂漠などに通信を中継する地上基地局がないため地上との通信頻度が低く、地球観測データにタイムラグが生じ、リアルタイム観測に問題がある。ならば中継する基地局を宇宙に置けばよいではないか、という発想だ。

加えて人工衛星用の通信バンド(帯域)は過密で、電波に「空き」がない状態だ。光であれば電波のような厳しい帯域制限はなく、大容量のリアルタイム通信が容易だ。ワープスペースは「未開の新市場」である宇宙空間の光通信で先行し、世界標準を狙う。

同社は初の光通信衛星となる「初号機」を2024年10月から25年春にかけて打ち上げ、民間初の宇宙での光通信サービスを始める。2026年までにさらに2機の小型人工衛星を打ち上げる計画だ。茨城県から「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクトの補助金を受けるなど、地元の期待も大きい。

文:M&A Online編集部