大学発ベンチャーの「起源」(56)  TRUST SMITH

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AIとロボティクス技術の両輪で産業界の課題解決を目指すTRUST SMITH(同社ニュースリリースより)

TRUST SMITH(東京都文京区)は、東京大学発のAI(人工知能)・ロボティクスベンチャー。東大で機械工学の研究をしていた大澤琢真社長が、2019年1月に設立した。数理アルゴリズムに基づく最先端のテクノロジーを駆使して、製造・物流業の課題解決に取り組んでいる。

生産現場で実証された高いロボティクス技術

経済学の開祖から名前をとった「ADAM SMITH」は、東大理学部物理学科出身で現在は京都大学基礎物理学研究所の高柳研究室に在籍する研究者が開発した。センサーで障害物を自動検知し、衝突を回避しながら目的物まで到達するアームロボット。同社が開発した3次元オブジェクト認識の技術で目的物を分別し、ピックアップ作業まで一貫して対応できる。

「Kaghelo」はロボットが前後左右や路面の凹凸、段差などを検知して、目的とする場所まで自律走行で移動する搬送ロボット。作業者が荷物を積載するとロボットが自動で運搬してくれるため、搬送作業の生産性を向上する。

環境協調型フォークリフトの「YOKOHAMA RUNNER」は、他の機材や動く物体を自動回避しながら目的地まで走行し、荷物をピックアップした後に所定の位置まで戻る。自律走行機能や、目的地までの経路を自動設定するマッピング機能、障害物回避機能を搭載し、重量物も運搬できるという。

生産能力を引き上げて顧客ニーズに応える

2019年10月にはドローンを用いて上空から太陽光パネルの亀裂を低コストで検知するAIシステムを、世界で初めて開発した。従来の人手による検知方法だと、1回の点検に数十万円の費用がかかっていたという。

2020年5月にGPU(グラフィックス・プロセシング・ユニット)ディープラーニング(深層学習)プラットフォームを提供するNVIDIAが、AIやデータサイエンスで業界に革命を起こそうとしているスタートアップ企業を養成する「NVIDIA Inception Program」のパートナー企業に認定されるなど、国際的に高い評価を得ている。

2020年11月には東大生産技術研究所の小野晋太郎特任准教授と学術指導契約を締結し、自動運転トレーラーシステムの開発に着手した。物流センター内などの閉鎖環境で、最適な配車計画や運行指示を自動で実行。トレーラーの車両間通信と効率のよい自動配車計画や経路設計により、限られた台数で荷物の運搬量を最大化する。将来は公道での完全自動運転を目指す。

同社は受注増に対応するため、生産能力を4倍に引き上げるなど積極的な設備投資にも乗り出している。産業界からの期待も大きく、共同開発の依頼も多い。AIやロボティクスの最新技術を利用して、さまざまな現場の問題解決に当たっていく。

文:M&A Online編集部