大学発ベンチャーの「起源」(55)  レラテック

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レラテック(神戸市)は神戸大学発の気象観測ベンチャー。立ち上げたのは、環境コンサルタント会社で主に再生可能エネルギーについてのコンサルティング業務に当たっていた小長谷瑞木社長。小長谷社長は2016年に神戸大大学院博士課程に進学。在職中や在学中に得た技術と人脈を活用して、風力発電所向けの風況調査に特化したコンサルティング事業へ参入するため、2020年11月に設立した。

社会人から大学院へ進学し、大学発ベンチャーを立ち上げた小長谷社長(同社ホームページより)

高度で専門的な知識と技術が必要な洋上風力発電

設立当時は洋上風力発電の市場がいよいよ動き出すというタイミングで、民間企業や官公庁、自治体を専門的にサポートする受け皿が必要とされていたという。

その技術的な裏付けとなったのが、同社技術顧問を兼任する大澤輝夫神戸大教授の研究。大澤教授の最先端の研究や調査のノウハウを、いち早く民間の風力発電事業に提供できるのが同社の強みだ。

受注の大半は風力発電事業者からの風況調査で、8〜9割は民間企業という。風力発電事業の経験がない電力会社や商社が多数参入し、「洋上風力発電事業のやり方がよく分からない」といった問い合わせも多いという。

洋上風力発電事業には「なるべく強い風が吹く場所に風車を建てること」と「どこにどれくらいの風が吹いているのかを正確に把握すること」が重要で、陸上風力発電よりも高度で専門的な知識や技術が必要になるという。

豊田通商と資本業務提携を結ぶ

日本では陸上風力発電の実績はあるが、洋上風力発電は欧州に比べて20年遅れているとも言われている。国内に洋上風力に特化している企業はなく、専門の研究者も少ない。レラテックは「技術的な空白」になっている国内洋上風力で、スペシャリストとして市場のリードを狙う。

2021年11月には神戸大学イノベーションの取り次ぎで、神戸信用金庫と日本政策金融公庫から資金調達に成功した。「風況観測」向けのドップラーライダー(レーザー光を上空に発射し、大気中の目に見えない塵や微粒子からの散乱光を受信して風向・風速を計算する)観測機材の設備投資に充てる。

資金調達で最新の観測装置を導入している(同社ホームページより)

2022年4月にはトヨタ自動車系総合商社の豊田通商<8015>と資本業務提携した。これによりレラテックが手がける風況観測事業で、効率性と確実性が高い機器の調達が可能に。併せて高度な風況観測に必要となる資金調達についても支援を受け、費用面で高額となる大型観測プロジェクトにも参画できるようになる。

豊田通商はドップラーライダーや同機器に使用する燃料電池の販売を手がけており、風力発電事業者向けのサービスを有利に展開するためレラテックとの提携に踏み切った。

地球温暖化防止やロシアのウクライナ侵攻による石油・天然ガスなどの値上がりから、太陽光発電よりも安定的な洋上風力発電への期待が高まっている。レラテックが活躍する舞台は、今後ますます広がりそうだ。

文:M&A Online編集部