大学発ベンチャーの「起源」(54)  CROSS SYNC

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CROSS SYNC(横浜市)は横浜市立大学発の医療ベンチャー。2019年10月に同大医学部出身で同大附属病院集中治療部部長の髙木俊介准教授が設立した。緊急医療現場の情報をAI技術を利用して分析し、医師や看護師に重症患者の治療での情報共有による気づきを与える重症患者管理システム「iBSEN(イプセン)」を開発している。

AIを利用して緊急医療の情報共有

「iBSEN」のネーミングは、デンマークの麻酔科医であり1952年に世界で初めて緊急治療室(ICU)を開設した「集中治療医学の父」と呼ばれるBjørn Aage Ibsen医師に由来する。Ibsen医師の思想を引き継ぎ、これからのICUや急性期病床で必要とされる機能の社会実装に取り組む。

同社の取り組みを一言でいえば、1分1秒を争うICU治療の「見える化」である。患者情報をリアルタイムで表示・共有し、ライブ動画による患者の常時モニタリング、患者情報を一定期間遡(さかのぼ)って表示するなど、デジタル化とデータ利用による診断治療の高度化や早期化、簡易化を目指す。

3月には横浜市立大と共同で、「患者のライブ映像を含むマルチモーダルな医療データを用いたAI技術により、重症患者の身体観察所見及び重症度評価を自動化するAI見守り機能を搭載したD-to-Dの遠隔ICUテレメディシン・サービスの実装研究」が、日本医療研究開発機構(AMED)の2022年度「医工連携・人工知能実装研究事業」に採択された。

集中医療現場でニーズが高い「資源管理」と「疼(とう)痛・精神管理」を、AI技術を活用した遠隔ICUシステムを実装することにより、「医療安全と質の改善」「現場医療と遠隔ICUスタッフの負担軽減」を目指す。具体的には患者の映像データから動画像解析により、重症度や痛み・鎮静・せん妄管理のための評価(精神状態評価)を常時自動モニタリングできるAI技術だ。

緊急医療医の不足により、地方でのICU医療が厳しい状況に追い込まれている。同研究は遠隔によるICU医療支援を実現する研究として、医療関係者からの期待も大きい。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による重症者受け入れでICU現場が混乱したのは記憶に新しい。同社の技術は、今後ますます注目されるだろう。

文:M&A Online編集部