大学発ベンチャーの「起源」(4) オンコセラピー・サイエンス

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オンコセラピー・サイエンス<4564>は「創薬ベンチャー」の一つ。2001年4月の創業以来、がん関連遺伝子や遺伝子産物を利用したがん治療薬や診断薬の研究開発を手がけている。創業者の一人が東京大学医科学研究所教授だった中村祐輔氏で、同研究所との共同研究で新薬開発に取り組む大学発ベンチャーだ。創薬では大学発ベンチャーの草分け的な存在で、2003年12月に東京証券取引所マザーズ市場に上場している。

副作用のない抗がん剤治療を目指して設立

中村教授(写真)が取り組んできた遺伝学と腫瘍学の研究をベースに創業した(同社ホームページより)

中村氏は大阪大学医学部卒業後、4年間外科医として臨床医療に従事した。その後は遺伝学と腫瘍学の研究者として、高度多型性VNTRマーカーやがん抑制遺伝子APCなどの研究で成果をあげてきた。1994年に東大医科学研究所分子病態研究施設教授に就任し、患者個人の遺伝的差異に最適な「オーダーメイド医療」の開発に取り組んできた。

その「集大成」といえるのが、オンコセラピー・サイエンスの設立だ。同社の企業使命は「より副作用の少ないがん治療薬・治療法を一日も早くがんに苦しむ患者さんに届けること、がんとの闘いに勝つこと」。手術や放射線治療と並ぶがん治療のひとつである抗がん剤治療だが、治療の過程でがん細胞だけではなく正常細胞にも強い毒性を示すため多くのがん患者が副作用で苦しんでいる。

こうした問題を解決するため、同社は腫瘍と正常臓器の網羅的遺伝子発現情報を取得。この発現情報をもとにがん細胞だけを狙い撃ちにし、副作用を極力抑えながらも治療効果が高い分子標的治療薬の研究を進めている。

分子標的薬の「ターゲット」を探せ!

その一つが「TOPK阻害剤」。分子標的治療薬を開発するには、そもそもどこが「がん細胞化」するのかというターゲットを同定しなくてはいけない。「TOPK(T-LAK cell-originated protein kinase)」は、中村氏が東大医科学研究所時代に、ゲノム包括的遺伝子解析によって同定された物質だ。

TOPKは乳がんや肺がんはじめ多くのがん種で発現が非常に高い一方で、正常な組織ではほとんど発現しない。TOPKに作用する薬剤であれば、多くのがん腫の治療に効果を発揮すると同時に副作用のリスクが非常に低いという。

多くのがんでTOPKの発現率は極めて高い(同社ホームページより)

同社はこのTOPKに対してのみ高い攻撃力を持つ「OTS964」などの低分子化合物を開発。様々ながん細胞を死滅させることや、人間の肺がん由来の細胞を利用したマウス実験で顕著に腫瘍の増殖を抑制する効果が明らかになった。

特に細胞の約1/100ほどの超微小なリポソーム製剤として静脈内に投与した場合、マウスに移植したヒトの腫瘍が完全に消失したという。同社ではこうした実験データを積み上げ、実用化に向けた臨床試験を進めている。

併せて中村氏によるゲノム包括的解析で発見した「FZD10」を標的とする「OTSA101 」も開発。「FZD10」と容易に結びつく「OTSA101」に放射性同位元素を結合しておくことで、放射線による強力な抗腫瘍効果を発揮することが動物実験で明らかになった。

オンコセラピー・サイエンスの創薬技術により、がんは外科手術ではなく「薬で治す」時代になるかもしれない。日本人のおよそ半分はがんで亡くなる。それだけにがん治療薬の市場は大きい。もちろん海外での重要も極めて高く、わが国経済を支える新たなビジネスに育ちそうだ。

文:M&A Online編集部