大学発ベンチャーの「起源」(40) グリラス

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グリラス(徳島県鳴⾨市)は徳島大学発のフードテックベンチャー。同大学院社会産業理工学研究部で昆虫の発生・再生と進化のメカニズムを研究する渡邉崇人助教が最高経営責任者(CEO)、三⼾太郎准教授が最高技術責任者(CTO)として2019年5⽉に立ち上げた。社名はフタホシコオロギの学術名である「Gryllus bimaculatus」に由来する。

将来懸念される「食糧危機」に対応する技術

世界の総人口は2050年には93億人に達するといわれ、途上国では27億人もの人口増加に見舞われそうだ。これに伴い、深刻な食料不足が懸念されている。とりわけ鶏や豚、牛といった現代人の貴重なタンパク源となっている食肉の生産が追いつかない。

しかも、これらの動物の飼育には莫大な穀物や水資源、土地を必要とし、家畜から発するメタンガスが地球温暖化の原因の一つともなっている。いわば「地球にやさしくない」食材なのだ。グリラスはこうした課題を解決するために、昆虫を食材として利用するための研究開発に取り組んでいる。

食糧危機の到来が懸念される中で、日本を含む先進国では年間13億トンもの食品が廃棄されている現実がある。同社はこうした廃棄食品を餌として育てたコオロギを食材として加工する「フードサイクル」の構築を目指す。コオロギはタンパク質や亜鉛、鉄分、カルシウム、マグネシウム、ビタミン、オメガ3といった体に必要な栄養素を多く含む理想的な食材という。

にもかかわらずコオロギは飼育時の餌や水が少量でよく、生産場所も既存の建物や遊休施設で問題ない。大規模な農場は不要なのだ。さらには飼育に伴う温室効果ガスの排出も少ないなど、環境負荷の少ない持続可能な食材となる可能性がある。

自動化による生産増とゲノム編集を利用した品種改良

2020年5月には良品計画<7453>と共同開発した「コオロギせんべい」を「無印良品」で発売。コオロギとは思えないエビのような香ばしさが好まれて、敬遠する人が多い昆虫食にもかかわらずヒット商品となった。同社サイト(https://gryllus-online.jp/)でも、コオロギを素材とする菓子を通信販売している。

ネット通販中のコオロギクッキー(同社ホームページより)

とはいえコオロギの体は従来の家畜よりもはるかに小さく、食糧として安定供給するには膨大な数の飼育が必要。そのため同社では徳島大学やトヨタグループの大手機械・部品メーカーのジェイテクト<6473>と共同で、コオロギの自動飼育システムの開発に取り組んでいる。

2021年上半期には給水・給餌の工程と収穫時の分別作業を自動化することで生産工程を効率化する「半自動化飼育システム」を導入する予定だ。これにより数年以内にコオロギの生産能力を、現在の約25倍に当たる月間10トンへ引き上げる。

将来は、これまでの研究・飼育のノウハウを活かし、採卵から粉末化までの全工程で人手がかからない「全自動飼育システム」の開発目指す。さらには研究室からコオロギDNAのゲノム編集に関するノウハウや特許技術を継承しており、より食用に適した系統や大量生産に適した系統、機能性成分を有した系統などの「高度な品種改良」も推進していく。

文:M&A Online編集部