大学発ベンチャーの「起源」(3) ウッドプラスチックテクノロジー

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再生可能エネルギーと同様、現代社会に求められている「再生材料」。その有望株として注目を集めているのが、ウッドプラスチック。木材繊維にプラスチックを融合して成形した複合素材で、製材加工で排出する木くずと使用済みペットボトルキャップといった廃棄物を材料に生産する。

日本では環境重視の観点から公共事業などで多く採用され、国内生産量も増加傾向にある。低価格の中国製品は存在しているものの、国内では地元産木材の有効利用ができることや廃棄されるペットボトルキャップのリサイクル利用といった環境への配慮から国産製品のシェアが高い。

東大の技術でウッドプラスチックの低コスト生産に成功

ウッドプラスチックテクノロジー(鳥取県倉吉市)は、このウッドプラスチックを素材とする物流用パレットの生産を手がける大学発ベンチャーだ。同社は2008年2月に、東京大学農学生命科学研究科の安藤直人教授(現・名誉教授)が開発したウッドプラスチック技術を事業化した。安藤名誉教授は、現在も同社の技術顧問として製品開発にかかわっている。

なぜ同社はパレットに目をつけたのか。従来の木製パレットには、使っているうちにささくれができたりカビは生えたりするなど劣化が目立つデメリットがあった。一方、プラスチック製パレットも温度変化に弱いなどの問題を抱えていた。

ウッドプラスチックパレットで事業化(同社ホームページより)

そこで安藤教授の指導の下、木材とプラスチックの弱点をカバーするウッドプラスチック素材を使った物流用パレット「ウッドプラスチックパレット」を開発。過酷な環境でも劣化しにくく、安心して使える製品と評価され、輸送業や倉庫業で引き合いが相次いだ。

安藤教授が開発した製法は、木くずなどの木質バイオマスとプラスチックを混合溶融機で攪拌(かくはん)することで摩擦熱を発生させ、その摩擦熱でプラスチックを溶かすことにより木材と一体化したウッドプラスチックを生成する仕組み。この材料を加圧力3000トン級の大型プレス機でパレットに成形する。

従来のウッドプラスチック製造法は木くずを粉状に粉砕し乾燥させてからプラスチックに混ぜる複雑な工程で、生産コストはプラスチック製パレットよりも割高だったという。安藤教授の技術だと、木くずをそのままプラスチックに混ぜることができるため、一般的なプラスチック製パレットに比べて、製造コストは2割程度安いうえに強度も上回るという。

「官」の支援策を利用して生産拠点を展開

ウッドプラスチックパレットは、生産における二酸化炭素(CO2)の排出量をプラスチック製パレットよりも約40%削減でき、再び加熱すれば簡単にリサイクルできるのも強み。わが国のCO2削減に貢献することが、大学発ベンチャーとして同社を立ち上げた理由でもある。

2009年12月に、初の生産拠点として岡山工場(岡山県津山市)を開設した。本社がある東京から遠く離れた中国地方に生産拠点を置いた理由は、国産材を材料として活用するため。加えて津山市からの誘致もあった。同市は2008年9月に「津山市バイオマスタウン構想」を策定し、廃棄物系バイオマスである製材工場から出る木くずの再利用につながる企業誘致に乗り出していた。

津山市は同構想の遂行に当たって、地場産の木材から木質ペレットが安定して供給できる体制を整備。ウッドプラスチックテクノロジーにとっても、原料が豊富な津山市は魅力的だった。本来なら廃棄される木くずの有効活用は、森林や国土を守ることにもつながる。ウッドプラスチック技術による国内林業振興への貢献も、同社のミッション(使命)の一つだ。

2013年12月には大型パレットを生産する鳥取工場(鳥取県倉吉市)をオープン。同工場内に本社を置き、東京本社(東京都文京区)との2本社体制となった。倉吉市に新工場を設けた理由も、企業立地支援制度が充実していたから。

パレットに続く新製品となったウッドプラスチック製の工事用敷板「Wボード」の開発に当たっては開発から実用化までを一貫して支援する「鳥取県リサイクル技術・製品実用化補助金」を活用した。さらに「鳥取県リサイクル製品販売促進事業補助金」を活用して首都圏での展示会に製品を出展したほか、「とっとり県内企業海外チャレンジ支援事業補助金」による海外での市場調査や販路開拓にも取り組んでいる。

官からの補助金で新製品を次々に開発(同社ホームページより)

文:M&A Online編集部