大学発ベンチャーの「起源」(30) Kyoto Robotics ー 日立が惚れこんだスタートアップ

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Kyoto Robotics(滋賀県草津市)は、作業ロボットの目となる「3次元ビジョンシステム」や頭脳となる「AI制御システム」の技術開発を手掛ける立命館大学発のベンチャー企業。同大情報理工学部の徐剛教授が、2000年12月に「三次元メディア(3D MEDiA)」として設立した。

早くから注目されていたロボット制御技術

2002年3月には大手ベンチャーキャピタルのジャフコグループ<8595>から1億円の出資を受けるなど、早くから有望なスタートアップとして注目されており、2018年1月に現在の「Kyoto Robotics」に社名変更している。

得意とする技術はアーム型搬送ロボットの制御で、物流現場で高く評価されている。人手不足に伴う物流の搬出現場では早くから作業の自動化に取り組んできたが、製造現場ほどには普及していない。

これは製造現場では同じ大きさ、同じ重量で整然と流れてくる部品や製品を取り上げ(ピッキング)、次の工程に送り込むという単純な作業なのに対し、物流現場では大きさや重量がばらばらで無造作に積み上げられている荷物を認識して仕分けるという煩雑な作業が必要なため。

従来の技術では「事前登録されたサイズやデザインの荷物しか取り扱うことができない」「事前登録された積み方でなければ対応できない」「パレットや台車、コンテナへの直積みといった物流現場で混在する積み方に対応するために、それぞれの専用制御システムが必要」という「三重苦」を抱えていた。

Kyoto Roboticsの「3次元ビジョンシステム」は、パレット上に無作為に積まれた段ボールの画像データの認識成功率で99.9%を達成。事前に登録されていないばらばらなサイズやデザインの荷物の山からでも、確実に個別の荷物として認識できるという。

ばら積みの荷物での認識精度は99.9%にまで向上した(報道資料より)

日立が基幹事業を成長させるために買収

カメラが捉える画像は平面的で、奥行きを認識するのは難しい。そこで同社のシステムは複数のカメラとプロジェクターによる光照射を組み合わせることで、奥行きなど立体的な空間把握を実現した。これにより人間の目視に近い認識が可能になる。

同社が開発した「目」(3次元ビジョンシステム)と「頭脳」(AI制御システム)を搬送ロボットと組み合わせることで、人間による作業と同様の荷さばきを実現した。重量物の飲料が入ったダンボールをパレットから降ろすロボットシステムをハマキョウレックス<9037>の尼崎センターへ、自動倉庫のパレットから事前登録のない様々な荷物の積み下ろしができるロボットシステムを日立物流<9086>の富山Ⅳ期物流センターへ、それぞれ納入するなど大手物流事業者との取引も広がっている。

2009年8月に、しがぎんリース・キャピタルと中信ベンチャーキャピタルから3600万円、2011年3月にエンゼルキャピタルから3000万円、2015年3月に豊田通商<8015>、オムロンベンチャーズ、SMBCベンチャーキャピタルから1億3200万円、2016年5月には産業革新機構、スパークス・グループ<8739>・トヨタ自動車<7203>・三井住友銀行の3社が出資する「未来創生ファンド」、三菱UFJキャピタルから7億円と、相次いで資金調達に成功した。

そして2021年4月1日に、日立製作所<6501>がKyoto Robotics株の約96%を取得し*、子会社化している。日立は買収により、高度な知能ロボットシステムの技術・ノウハウを獲得し、日立グループが提供するロボットSI(システムインテグレーション)事業の高付加価値化を図る。

一方、Kyoto RoboticsはロボットSI事業に注力する日立グループの一員になることで、単独では実現が難しい多数の顧客に自社技術を提供できるようになった。同社の徐社長は「日本では珍しい大企業によるベンチャー企業の買収の先例となり、わが国のオープンイノベーションの促進に貢献できる」と喜んでいる。

日立という大きな「後ろ盾」を得たKyoto Roboticsが、今後どのような技術革新を引き起こしていくのか注目だ。

 *取得金額は非公表

文:M&A Online編集部