大学発ベンチャーの「起源」(27) Jij

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Jij(東京都文京区)は、東京工業大学発の量子コンピューター開発ベンチャー。同大の西森秀稔教授と当時大学院生だった門脇正史氏が1998年に提案した「量子アニーリング」と呼ばれた計算手法が「起源」だ。

量子コンピューターの敷居を低く

科学技術振興機構(START)の2017年度大学発新産業創出プログラムに採択され、2018年11月に西村研究室に在籍中の山城悠氏が最高経営責任者(CEO)、同研究室出身者の西村光嗣氏が最高経営責任者(CTO)にそれぞれ就任して同社を立ち上げた。

量子アニーリングは「条件を満たす解の中で一番よいものを求める」組み合わせ最適化問題を解くための量子力学を使った計算手法のひとつ。金属やガラスを高温に熱してからゆっくり冷やすことで、内部のひずみが除かれて構造が安定する自然現象「焼きなまし(アニーリング)」をシミュレートすることで解を得ようというものだ。

従来の手法では難しかった質・量ともに膨大なデータを効率的に処理し、ベストな予想や判断を下す計算が可能になる。人の行動パターンの予測や、そこから生まれるであろう移動ニーズ、電力などのエネルギー需給変動を計算するのに適した手法だという。

IoT(モノのインターネット)化の進展で、ますます膨大なデータが集まるだろう。それらを効率的に計算処理することで、高付加価値の情報サービスを提供できるようにするのがJijの使命だ。

同社が開発している「Jij-Cloud」は、既存手法では解決できないオペレーションの最適化問題に直面する企業が、量子コンピューターの一種であるイジングマシンや量子アルゴリズムの専門知識を必要とせずに利用できるミドルウェア。

2019年に「Jij-Cloud」の一部アルゴリズムのライブラリをオープンソースソフトウェア(OSS)として公開しており、β版の提供も始めている。NECや日立製作所、D-Wave、マイクロソフトなどとの提携も進む。

「Jij-Cloud」の概念図(同社ニュースリリースより)

創業2年で2億円超の資金調達

Jijへの期待は大きい。2019年2月に独立系ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円、2020年8月には同社とAI特化型インキュベーターのDEEPCOREをリードインベスター(出資の取りまとめ役)、みらい創造機構を引受先とする第三者割当増資で総額約2億円と、二つの大きな資金調達に成功した。

2020年12月にはアーリーステージの優れたAI(人工知能)関連スタートアップ企業を表彰するコンテスト「HONGO AI 2020」で住友商事賞を受賞するなど、同社の技術とビジネスモデルは高い評価を受けている。

文:M&A Online編集部