「大江戸温泉物語」をめぐる「千客万来施設」の騒動とは

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東京お台場大江戸温泉物語(Photo by photolibrary)

お台場屈指の観光スポットであり、年間100万人が訪れる人気施設「東京お台場大江戸温泉物語」が2021年9月5日で閉館することとなりました。閉館の理由は、東京都との事業用定期借地権設定契約が2021年12月に期限を迎えるため。契約の最長期間は20年で延長が認められず、再契約もかないませんでした。建物は解体撤去され、更地にして土地は東京都に返還されます。

この東京お台場大江戸温泉物語と土地契約の問題は、豊洲市場に隣接する「千客万来施設」の運営を巡り、対立を生んだ過去があります。この記事は、大江戸温泉と千客万来が辿った道を整理してお伝えするものです。

本記事では、以下の情報が得られます。

・大江戸温泉の概略
・豊洲市場の新施設「千客万来」いざこざの内情

お台場を足掛かりに500億円で株式をファンドに売却

全国にテーマパーク型の温泉施設を展開する大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ(中央区)は、お台場の温泉施設がルーツです。運営会社である大江戸温泉物語を2001年11月に設立し、2003年3月に日本初の温泉テーマパーク東京お台場大江戸温泉物語を開業しました。

施設の運営が軌道に乗ると、全国の観光ホテルや温泉施設などを次々と買収。2007年3月に「大江戸温泉物語 あいづ」(旧:ウェルサンピア会津)、4月に「大江戸温泉物語 伊香保」(旧:伊香保東急ビラ)、「大江戸温泉物語 日光霧降」(旧:メルモンテ日光霧降)など、リニューアルした施設を次々とオープンしました。

子供連れで楽しめるテーマパーク型のコンセプトが受け、またインバウンド需要も盛り上がっていたことから、2020年7月末の時点で39施設を運営するまでに成長しました。

2015年3月には、米投資ファンドのベインキャピタルが創業者一族などから全株式を500億円で取得しています。ベインキャピタルは会社の株式上場を目指していたとされていますが、大江戸温泉のグループの物件を所有する大江戸温泉リート投資法人<3472>を2016年8月に上場させました。大江戸温泉リートは2021年6月時点で14施設を所有していますが、この中にお台場の物件は含まれていません。

さて、温泉施設の一大グループを形成する礎となった東京お台場大江戸温泉物語ですが、東京都と千客万来の運営会社をめぐる騒動の火種となった過去があります。

借地権契約延長が喜代村の辞退へ

東京都は豊洲市場の観光の目玉として、温泉や宿泊施設、ショッピングモールなどを備えた複合施設「千客万来」の構想を打ち立てました。当初、この施設の運営に名乗りを上げていたのが、「すしざんまい」を運営する喜代村(中央区)と大和ハウス工業<1925>でした。施設は大きく2つに分かれており、喜代村が飲食店や専門店街、温泉などの施設、大和ハウス工業が伝統工芸の体験や温浴棟を備える施設を運営する計画でした。

ところが2015年4月に喜代村の木村清社長が記者会見を開き、運営を断念すると発表したのです。その理由は温泉施設の競合となる東京お台場大江戸温泉物語と東京都が結んでいる借地権契約が、喜代村らに相談もなく2021年末まで延長されていたこと。当初は2016年3月で契約が切れるという話だったというのです。

喜代村と共同で事業を推進する予定だった大和ハウス工業も辞退し、千客万来施設の計画は暗礁に乗り上げました。

施設運営会社を再公募して手を挙げたのが、全国で「万葉の湯」や「万葉倶楽部」などの温泉・宿泊施設を展開する万葉倶楽部グループ(小田原市)でした。

しかし、東京都と万葉倶楽部は施設や土地活用の方針をめぐって対立します。小池百合子東京都知事は、もともと民間に売却する予定だった築地市場跡地を、貸し出す方針へと切り替え、食のテーマパークとして再開発することを掲げました。

東京都が率先して千客万来の競合施設を開発するこの計画に万葉倶楽部が反発します。結局、東京都は2019年に「築地まちづくり方針」を策定し、国際会議場やホテルなどを軸とした計画へと塗り替えました。

その他建設計画などの複合的な要因が重なり、万葉倶楽部は千客万来の運営を行うかどうかの判断を保留していました。ここで事業が困難との回答を得た場合、東京都は再度運営会社を募ることとなります。

千客万来施設イメージ
万葉倶楽部グループ 「豊洲市場千客万来施設事業の事業予定者決定について」より引用

新施設は2023年春にオープン

最終的に万葉倶楽部は態度を軟化させ、従来の計画より大幅に遅れる東京オリンピック・パラリンピック後に着工することで、千客万来施設事業を行うことを決めました。

台風の目となった千客万来施設は2023年春にオープンします。

東京都中央卸売市場によると、千客万来施設は当初の予定通り「商業棟」と「温泉・ホテル棟」で構成され、24時間営業の温泉・ホテルを展開するそうです。千客万来をめぐる騒動がようやく収まりつつあります。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由