2020年4月20日、米ニューヨーク商業取引所で米国産WTI原油の先物価格(5月物)が一時1バレル(約117リットル)=−40.32ドル(約−4330円)まで下落し、同−37.63ドル(約−4040円)と史上初のマイナス価格で取引を終えた。つまり1バレルの「買い」を入れると、売り手から約4000円を支払ってもらえることになる。
残念ながら、5月物の売買期限は4月21日。しかし、ガッカリする必要はない。6月物は現在+20ドル前後で取引されているが、期限の5月最終営業日に近づけばマイナス圏に陥る可能性もある。5月物は間に合わなかった人にも、まだチャンスはありそうだ。
もしも5月物と同程度のマイナス価格ならば、1万バレルばかり「買い」を入れれば4000万円の丸儲けではないか!確かにその通り。ただし、米オクラホマ州クッシングの貯蔵施設まで1万バレルの原油を引き取りに行ければ、の話だ。
そもそもWTI原油の先物価格がマイナスに転じたのは、同原油を貯蔵するクッシングのタンクに「空き」がなくなったから。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で世界経済が落ち込んでいるのに加えて、石油を消費するモノやヒトの移動が大幅に減少。にもかかわらずロシアと石油輸出国機構(OPEC)との減産交渉が長引いたことから、原油在庫が急増している。
クッシングでの原油在庫は、同2月末以降で48%も急増して約5500万バレルに。クッシングの貯蔵能力は7600万バレルで、現在のペースで在庫が積み上がると5月第1週までに満杯になるという。
だから4月21日に引き渡し期限が来る5月物がマイナス、すなわち「お金を支払うから原油を持っていってくれ」ということになったのだ。「ペットボトルの水より安い」と揶揄されてきた原油だが、もはや産業廃棄物扱いである。
もちろん期限までに先物の権利を売り抜ければ、現物を引き取る必要はない。が、こうした状況が変わらなければさらに安いマイナス価格で売る、つまり受け取った金額にさらに上乗せした額を支払って新たな買い手に引き取ってもらうことになる。
新たな買い手が見つからなければクッシングの貯蔵施設に保管料を支払うか、もしくはタンクローリー車を差し向けて原油を移送するしかない。当然、移送費に加えて新たな貯蔵施設での保管料も必要になる。
現在の「石油余り」の状況だと、高値で原油を販売するのは無理な話だ。マイナス価格で原油を引き取ったところで、移送費や貯蔵費で大赤字になるのは目に見えている。だからこそ「マイナス価格」が成り立つ。「タダほど怖いものはない」というが、マイナス価格はもっと怖いのだ。
文:M&A Online編集部