​注目集める! 「ベトナム・オフショア開発」のコツ

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システム設計やソフトウェア開発などを行うIT系企業では、昨今、採用難・人材不足が大きな課題となっている。その解決策の一つとして注目を集めているのが「オフショア開発」だ。

オフショアとは、文字どおりショア(岸辺)からオフ(離れた)しているということ。一言でいうと「沖合」で、一般には、システム開発などを行う企業がその一部を海外の開発会社や海外子会社にアウトソースし、プロジェクトを遂行するしくみとして知られている。

そのオフショア先として最近、注目を集めているのがベトナム。研究開発型の企業が海外企業をM&Aする動きも活発化しているが、ここではそのオフショア開発の手法やメリットがどこにあるのかを考えてみたい。

採用難・人材不足への対応は喫緊の課題

ここ1〜2年、IT技術者についての採用の難しさを訴える企業が増えている。2017年9月、リクルートキャリアが発表した8月の転職求人倍率では、全体平均が1.90倍であるのに対し、Webエンジニアを含むインターネット専門職は、5.99倍とダントツに高かった。いわば、完全な売り手市場で、IT技術者を求める企業側は“人を選べない”状況だ。インターネット関連事業を手がける株式会社アイディーエス(IDS、https://www.ids.co.jp)の営業部長・海野智之氏も、「感覚的にいえば、いまは1人の採用に150万〜200万円くらいかけても、新卒・転職者採用ができないケースもある……、そんな状態です」と語る。

採用難であれば、当然のように採用できたとしても転職してしまうケースもある。そのまま手をこまねいていると、人材難に陥り、事業が立ちゆかない企業も出てきかねない。

「B to Cの大手ではない限り、認知度もそれほど高いものではないでしょうから、求職者を獲得することも難しく、加えて採用できても、長く定着していただくことが難しいケースもあります。業界内でも『何とかしたい』という声はよく聞きます」(海野氏)

ただ、そのようなことを一挙に解決する“打出の小槌”がないのも現実なのだ。

長年培ってきたオフショアの経験

そこでIDSでは、15年ほど前、2003年から「オフショア開発」に取り組んできた。海外に開発拠点を設け、現地で人材を採用しながら、また、必要に応じて社員を派遣して、システム開発などのプロジェクトを進めてきた。

IDSのオフショア開発は、これまで、フィリピン、中国、そしてベトナムで実施してきた経験がある。そのなかで最も有望なオフショア先は、2007年から体制整備を進めてきたベトナムだと強調する。フィリピンとのオフショア開発では、すべて英語でのやり取りだったので、プロジェクトがスムーズに進まない面もあった。中国では、個人の資質・スキルは高いものの、集団としては協調性に欠ける部分もあり、チームプレーを重視するプロジェクトでは思うような成果が得られないことがあった。

だが、ベトナムは、そうした2つの国のような課題が少なく、これまでの経験を活かし、日本企業のプロジェクトでも十分に任せられるような仕組みづくりをしてきたという。

パートナーという視点と「ブリッジSE」の重要性

他のIT企業でも、ベトナムでのオフショア開発に関心を寄せるところは多い。実際に大手・上場企業ではM&Aによってベトナムの現地企業を買収するケースもある。

そのベトナムの良さを一言で示すと、「親日的であり、国民性が日本に似ている」ということ。

「少し時間にルーズな面は感じますが、基本は勤勉で真面目。向学心もあり、小型案件でも誠意をもって取り組んでくれるので、パートナーとしての取り組みやすさを実感しています。ただ、日本同様にベトナムでもIT技術者は引く手あまたで、より給料の高い会社があると、そこに自分の仲間と一緒に移ってしまうことがないわけではありません。将来的にキャリアをつくっていく大切さも、日本人ほどは感じていない。アメリカをはじめ日本以外の外資系の会社ほど高い給料は出せないのが現実ですから、当社のラボで働き続けるメリットをどう感じてもらえるか、ですね。ベトナムのラボ内、また日本の会社との交流・コミュニケーションが重要になります」(海野氏)

そこで、同社では自社でのオフショア開発の試行錯誤を経て、2017年、ベトナムに新たにオフショアラボ拠点として、IDSの100%出資の子会社(IDS Vietnam Co., Ltd、https://vn.ids.jp/jp)を設立し、日本人の社長を据えるとともに、現地ベトナム人スタッフへの日本語・文化の教育も積極的に進めた。日常会話ができ、技術の知識も十分にあるエンジニアは「ブリッジSE」として、プロジェクト遂行のために、ベトナム人メンバーをとりまとめ、日本のクライアントとの橋渡し役として活躍している。

日本法人を通じたラボ契約も重要な要素

IDS Vietnam Co., Ltdのオフィス

同社ではいま、その「ベトナムでのオフショア開発」の手法を整備・カスタマイズして、自社のビジネスとして進めている。『スマラボ』(と呼ばれるそのサービスには、従来のオフショアとは異なる特徴がある。

従来のオフショアでは、日本の担当者が現地のSE(ブリッジSE)に業務を直接依頼し、ブリッジSEが現地のプロジェクトチームを動かして、日本の担当者が成果物の納品を受けることが一般的だった。すると、そのラボ契約は現地法人との直接契約であり、プロジェクトの管理、ラボチームの工数管理などはすべて業務を依頼した顧客側で対応することになる。支払いもドル、もしくはベトナムだとドンになる。

一方、『スマラボ』ではベトナムに拠点を置く日本法人との契約となる。ブリッジSEと現地プロジェクトチームによる業務の流れは同じだとしても、現地ラボのコミュニケーション支援や教育、モチベーション管理を含めたプロジェクト管理支援などは、現地の日本人マネージャーが行う。そのため、プロジェクト要件に応じた柔軟な体制の構築が可能となる。ちなみに、決済も日本法人との契約であるため円で行うことができる。

業務提携、オフショア、M&Aなど、規模の大小や手法を問わず、一口に海外拠点を設けるといっても、そこにはさまざまなリスクがともなう。システム設計などのプロジェクトを行う研究開発型の企業の場合も同様だ。『スマラボ』は、そうしたプロジェクトリスクが最小化できる仕組みといえる。

M&Aでは、買収後“もぬけの殻”という事態も

M&Aによってベトナムに進出する日本企業は増えてきている。では、オフショア開発を進める立場としては、M&Aによる現地法人の買収はどう映るのか。

「新聞やニュースでは『○○がベトナム企業を買収』といった記事を見かける機会もありますが、どこの会社も、いきなり乗り込んで買収するのではなく、みなさん地道に“オフショア開発的”なことに取り組んで、その先でバイアウトも含めたM&Aによってシナジー効果を発揮されているように思います。M&Aで注意したいのは、まずタイミング。互いにとって最も適した時期に取り組むということです。それと、『買って中身を開けてみたら、何もなかった』といったこと。買う段階では精査しても、買ったとたんに買収先の社員が離職して器しか残っていないといったことは、売り手市場のSE、研究開発型企業ではあり得ますので」(海野氏)

かつて、「東南アジアなら人件費は安く上がり、好都合だ」と考え、現地に進出する企業もたくさんあった。しかし、いまは「人的資源を調達できればいい」では立ち行かない。ことSEの現場では、よりパートナーとして互いに信頼しあえる関係づくりが重要になっている。

取材・文:M&A Online編集部