日本駐車場開発<2353>が2日発表した2016年8―10月期の連結決算は営業利益が7億3400万円と前年同期(1億8100万円)の約4倍に膨み、過去最高となった。収益を押し上げたのは今期から本格的に開始したテーマパーク事業だ。テーマパーク事業の営業利益は5億6000万円と、主力の駐車場事業の営業利益(6億6700万円)に次ぐ水準だ。
同社は2016年5月、テーマパーク事業に進出するため、日本テーマパーク開発を設立。日本テーマパーク開発を通じて栃木県北部の那須高原において遊園地「那須ハイランドパーク」を運営する藤和那須リゾートの株式を三菱地所レジデンスから1円で取得し、子会社化した。
那須ハイランドパークでは2015年5月に園内のジェットコースターの部品が落下、近くにいた男性が軽傷を負う事故があった。この影響で客足が低迷、2015年12月期は2000万円の営業赤字に転落していた。破格の値段で買収できたのは、この事故の影響で業績低迷が長引くと予想されたためだろう。
こうした中でも、日本駐車場開発には十分に勝算があった。活用したのはスキー場の事業で培った再生ノウハウだ。
ピーク時に2000万人にのぼったスキー人口は700万人まで減り、スキー場の売上は年々減少が続いていた。そこで、日本駐車場開発は2005年に日本スキー場開発を立ち上げ、スキー場の再生に乗り出した。かき入れ時の冬季期間は駐車場予約サービスや電源付きキャンピングカーサイトなどを新設して集客力を強化。スキーができない期間(6~11月)はキャンプや自転車のイベントを開催したり、宿泊施設や飲食店を整備したりして通年で集客できる体制をつくった。
現在では長野県を中心に8ヶ所のスキー場を運営。オーストラリアやアジアなどから訪日外国人の観光客も増えており、日本スキー場開発<6040>は2015年9月期には営業利益9億500万円を計上。同年4月、東京証券取引所マザーズ市場に株式上場を果たした。
こうした経験を活かして、那須ハイランドパークの買収後は、まずアルバイト社員を正社員化するなどして運営体制を強化。「機動戦士ガンダム」などの知名度の高いキャラクターを生かしたイベントやプロレスをテーマにした展示イベントなどを開催して集客に努めた。結果、今年8-10月に20万4000人が来場し、11億9700万円を売り上げた。これは期初の通期予想(29億円)の4割強に相当する。
ハイシーズンの夏場は好調な滑り出しとなったが、真価が問われるのはこれから。同社は、園内に100~150万球のイルミネーションを新たに設置し、これまで不稼働だった冬季期間も営業を始める。来年3月には「ゲゲゲの鬼太郎」の妖怪たちと迫力のレースを3D映像で体感できる新たなアトラクションを投入する計画だ。
日本テーマパーク開発は、テーマパーク自体の再生だけでなく、周辺の別荘を利用した事業や、別荘に付随する水道事業への参入も視野に入れる。別荘の多くはバブルの時代につくられたが、不稼働なものも多い。同社は駐車場ビジネスで培ったノウハウを活かして、こうした不稼働の不動産の活用も進めていく考えだ。
テーマパークの魅力向上によって、那須エリアを訪れる日本人や外国人の観光客が増えれば、別荘やコテージなどの宿泊施設の稼働率も高まり、最終的に水道事業の需要も増える――。同社が描くのはこんな青写真だ。成功すれば、地域の雇用や税収が増え、M&Aを通じた地方創生の新たなモデルとなる。
しかも、スキー事業が拡大するにつれて冬場に収益が偏りがちだった日本駐車場開発にとって、テーマパーク事業が起動に乗れば、連結グループでみて通年で安定して稼げる収益体質を築けることになる。まさに一石二鳥のM&A。事故の直後とはいえ、これを1円で取得できたわけだから、日本駐車場開発はとてもいい買い物をしたと言えそうだ。
文:M&A Online編集部