欧米メディアで読む「南北首脳会談の評価」と「米朝会談の行方」

alt

2018年4月27日に板門店で開かれた韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長の南北首脳会談には、40か国を超える取材メディアが集まり、世界中が注視するところとなった。同年5月末から6月にかけては米国と北朝鮮の首脳会談も予定されている。南北首脳会談への評価と、米朝首脳会談の見通しについて海外メディアの論調を整理した。

南北会談が「形式的かつ象徴的な結果にとどまり、北朝鮮の非核化の実現について疑念が残る」との批評は、今回とりあげた全記事で足並みが揃った。一方で、ドナルド・トランプ米大統領と金委員長との会談に寄せる期待度は欧米で温度差が見られる。

北朝鮮の非核化は希望薄、米国に対する反発もやむなし・英インディペンデント

4月27日・30日の英インディペンデント紙は、南北会談が米朝会談の良き前兆にはなりうるだろうとしつつも、「非核化の時期などの具体的な問題は何一つ解決しなかった」と結論づけた。

金正恩委員長
中東の独裁者を抹殺した米国の「裏切り」を警戒する金委員長

また北朝鮮の今後についてはイラクとリビアを引き合いに出し、両国とも核兵器断念後に欧米の軍事侵攻を受け、国の指導者だったサッダーム・フセインやムアンマル・ガダフィが殺害された悲劇がある以上、金委員長が非核化に積極的に乗り出すことはないだろうと指摘した。

さらに同紙は、イラン情勢も北朝鮮の動向を左右するキーになると論じた。すなわち「米欧など6カ国と交わしているイランの核合意から離脱を図るトランプ大統領の振る舞いは、大きなマイナス要因になる」と分析している。そして、トランプ大統領が国際社会の取り決めを遵守しない以上、北朝鮮が「信用に値しない米国」との評価を下すとしても、北朝鮮を責めることはできないと結んだ。

米朝首脳会談のキーは、3人の米国人拉致被害者の返還・英タイム

4月27日の英タイムも、南北会談は予想通り演出されたものであり象徴的だったと記している。理由として、南北会談から生じうる結果は限られており、「非核化は米国にとっての重要問題だが、(北朝鮮との地上戦が始まれば、通常兵器でたちまち焦土となる)韓国にとってはたいしたテーマでない」と指摘。長期にわたり核軍備を誇示してきた北朝鮮が完全に放棄するとは信じがたく、「朝鮮半島の非核化について北朝鮮は、中国や米国と異なる解釈をするだろう」とも分析した。

そのうえで同紙は、米朝会談で金委員長が実現しやすいのは「トランプ大統領に小さいながらも自尊心の満ちる勝利を実感させられる」北朝鮮で拘束中の米国人3人を母国に帰すことだとする論理を展開した。だからこそ、真価を問われるのは南北会談ではなく米朝会談であると同記事は結論づけたが、その一方で米朝会談は突如の中止もしくは悲惨な結果に終わるおそれもあるとの危惧も示す。それは「トランプ大統領に即時かつ完全な非核化以外交渉の道はないと吹き込む助言者がいる場合だ」と釘を刺している。

期待が高いほど強まる懐疑・米ニューヨークタイムズ、米CNN

4月27日の米ニューヨークタイムズ紙は、「南北朝鮮は最終平和と非核という大胆な目標を設けた」との見出しの下、非核化を検証する基盤を定めない限り、他のコミットメントのほとんどは、ただの望みにすぎないとの分析を掲載した。

同紙は「期待が高いほど懐疑論も強まる」との言葉と共に、3点の疑問を挙げた。

1点目は金委員長が南北関係の改善により韓国を米国から離反させ、北への経済制裁を免れようとしているとの疑念。

2点目は前回の南北間合意も10年以上実行されなかったことをふまえ、南北会談の結果が本当に履行されるのかという疑念。

3点目は北朝鮮が核兵器削減協議に米国を巻き込み、交渉を手詰まり状態に押し込まないかとの指摘である。

同様に4月29日の米CNNも、朝鮮半島の非核化の用意があるとの金委員長の発言に対して「彼の非核化の定義は米韓と異なるかもしれない」とし、核兵器放棄の意向の真偽について懐疑論があると報じた。

ムン・ジェイン韓国大統領
文大統領の外交手腕で北朝鮮の核放棄を実現できるか?(Photo By President of Russia)

「本当の交渉」は米朝首脳会談に期待するしかない・米CNBC

4月30日の米CNBCは「非核化を実現するために、米朝首脳会談への期待は大きい」との記事を掲載した。同記事も上記のニューヨークタイムズやCNNと同じく、南北会談で朝鮮半島非核化についての詳細が全く示されなかったことを指摘。「北朝鮮が核兵器を放棄する見通しは乏しい」とした。その理由として、朝鮮半島非核化の声明はこれまでの2回の南北会談でもなされたものであり、今度の南北の共同宣言にも法的拘束力はなく、非核化の具体的な手順や時期の詳細の明示もない、非核化の定義も双方で異なりうることを挙げた。

そのうえで、本当の交渉は南北会談ではなく、米国と北朝鮮の会談に委ねられるとした。「米朝会談は漠然としたものでも何らかの合意を意味し、非核化への過程につながる」というのが理由だ。そのうえで「米軍の韓国駐留を含め、北朝鮮の安全保障について米がどう譲歩するかに焦点が当てられるだろう」とコメントしている。

同日のCNBCは別の記事で、トランプ大統領が金委員長との首脳会談について、「楽観論と悲観論のバランスを取ろうとしている」と指摘。トランプ大統領は金委員長との会談を単なる外交政策ではなく、「メディア上の大イベント」と考えている可能性があると報じた。

トランプ米大統領
トランプ大統領には米朝会談もメディア向けのイベントか?(Photo By COAST GUARD COMPASS)


<参照記事>
https://www.independent.co.uk/...
https://www.independent.co.uk/...
http://time.com/5257062/north-...
https://www.nytimes.com/2018/0...
https://edition.cnn.com/2018/0...
https://www.cnbc.com/2018/04/3...
https://www.cnbc.com/2018/04/3...

文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部