【のれんの減損】日清製粉が黒字予想から185億円の赤字に修正

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※画像はイメージ

製粉大手の日清製粉グループ本社<2002>が、2022年10月19日に2023年3月期の通期業績予想の下方修正を発表しました。185億円の純利益としていた予想を185億円の純損失へと一転させました。

大赤字の要因は2019年2月に買収した、オーストラリアで製粉事業を営むAllied Pinnacle社ののれんを含む固定資産の減損損失558億を計上したため。ウクライナ情勢によるエネルギーコストの上昇などを受け、子会社の収益性が計画から大きく乖離しました。

しかし、株価は9月22日の1,414円から底打ち反転して、10月26日に1,612円をつけました。今後はのれんの償却費負担が減って営業利益や経常利益が上がることを市場は好意的にとらえています。

この記事では以下の情報が得られます。

・日清製粉の業績推移
・M&Aによる成長戦略

コロナ禍でも黒字化を維持していた日清製粉

日清製粉グループ本社はオーストラリアのPEファンドPacific Equity Partnersなどから、470億円(うちアドバイザリー費用11億円)でAllied Pinnacle社の経営権を取得する株式売買契約を締結しました。

Allied Pinnacle社はオーストラリアの大手製パン、製菓、ベーカリー会社などと取り引きをしています。日清製粉グループ本社はオーストラリアに販売網を構築するだけでなく、2012年12月に子会社化したニュージーランドのチャンピオン製粉との間で、双方の物流網を活用した販売網の拡大、業務効率化等のシナジー効果創出を狙っていました。また、オーストラリアを拠点としてアジアのベーカリー市場に対する輸出を強化する計画でした。

しかし、買収した1年後に新型コロナウイルス感染拡大という不測の事態が起こります。各都市に課された行動制限により、Allied Pinnacle社が得意としていたインストアベーカリーの需要が急速に縮小。国境規制によって輸出も滞りました。2022年に入ってコロナ禍の影響は和らぎましたが、ロシアがヨーロッパを中心にエネルギー供給を停止したことなどを背景として、エネルギーコストが上昇。Allied Pinnacle社の利益を押し下げました。

のれんの減損損失は日清製粉グループ本社に大打撃を与えます。同社はリーマンショック直後の不況や2020年の新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言下でも黒字を堅持していました。

■日清製粉グループ本社の業績推移

※決算短信より筆者作成(売上高・純利益の目盛りは左軸、純利益率の目盛りは右軸)

2023年3月期の純損失の経営責任を明確にするため、日清製粉グループ本社の経営陣は役員報酬の一部を返上しています。それだけ事態を重く受け止めているということでしょう。

■役員報酬返上の詳細

※「減損損失の計上及び業績予想(第2四半期、通期)の修正に関するお知らせ 」より

しかし、今回の減損損失により、日清製粉グループ本社は収益性を高める公算が高いです。

Allied Pinnacle社を買収した際に349億4,500万円ののれんを計上しました。

※2021年3月期有価証券報告書より

日本製粉グループ本社は、のれんの償却方法を主に10年で均等償却をしていることから、2022年3月末時点で280億円程度の豪州事業ののれんが積まれていたと予想できます。2022年3月末の同社ののれんの合計額は423億8,500万円。280億円を全額減損損失として計上していたとすると、のれんは144億円程度まで圧縮されます。

年間ののれんの償却負担は42億円から14億円まで下がる計算です。同時に無形固定資産の償却負担も減ることから、グループ全体の利益が増加する可能性があります。

エネルギーコストは上昇していますが、オーストラリアはコロナ陽性者の隔離を2022年9月に原則撤廃しました。新規感染者数は1日5,000人前後で推移しているものの、経済活動はコロナ前に戻りつつあります。Allied Pinnacle社の主要な取引先であるベーカリーショップに客足が戻れば、収益性は回復するでしょう。

それに加えてのれんの償却負担も減ります。市場が今回の減損損失を好意的に受け止めているのもうなずけます。

M&Aで生産拠点を日本とアメリカからトルコへ拡大

日清製粉グループ本社は2012年ごろから海外進出を果たすため、積極的にM&Aを活用するようになりました。

アメリカの製粉会社Miller Milling Companyを子会社化したのが2012年2月。アメリカで9位の製粉会社で、主にパスタ・ベーカリー製品向けに小麦粉を提供する会社です。日清製粉グループ本社はすでにアメリカへの進出を果たしていましたが、子会社化によって販売網を広げました。2014年5月にはMiller Milling Companyがアメリカの製粉4工場を取得しています。

2012年12月にはニュージーランドの食品大手Goodman Fielderから製粉事業(チャンピオン製粉)を33億円で取得。オセアニアへの進出を果たします。

2014年6月に丸紅<8002>と、トルコのパスタメーカーNuh’un Ankara Makarnasi Sanayi Ve Ticaret A.S.との間で合弁会社を設立。トルコに生産拠点を設けました。これにより、日清製粉グループ本社の子会社日清フーズの神戸工場は生産を停止。冷凍食品新工場を建設しました。

気候条件が安定したトルコは小麦や穀物、野菜などの農産物が豊富。原材料の安定的な調達に適しているほか、ヨーロッパとアジアの中間にあり、アフリカとも近いことから輸出面でも有利です。合弁会社の設立により、生産拠点が日本とアメリカ、トルコへと広がりました。

日清製粉グループ本社は1988年3月にタイで合弁会社Thai Nisshin Seifun Co., Ltd.(日清STC製粉)を設立して進出を果たしていましたが、2018年3月にタイの製粉工場を18億円で買収しています。これにより、日清STC製粉の生産能力が2.3倍に増強されました。

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