実名公開でM&A情報を掲載! 日本公庫の新しい取り組みに注目

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Image by Gerd Altmann from Pixabay

日本政策金融公庫(日本公庫)は8月5日、国民生活事業の事業承継マッチング支援で「オープンネーム(実名)による後継者公募」を開始した。第三者承継(M&A)の譲受先探しは譲渡側の企業名を隠したノンネーム(匿名)情報で進めるのが一般的だが、あらかじめ実名を明かすことで事業の内容や魅力をより伝えやすくする。

申し込みが激増した事業承継マッチング支援

事業承継マッチング支援は2019年度に東京都内で試行的に開始し、2020年度から全国で展開。譲渡と譲受のいずれかを希望する企業を募り、M&Aの条件が合致する両者を無料で引き合わせている。譲渡事業を受け継いで創業したいと考えている人も利用できる。

新型コロナウイルスの影響や中小企業経営者の高齢化などで事業承継ニーズが高まる中、2021年度の申し込み件数は譲渡希望が前年度比965件増の1,035件を記録。譲受希望にも同1,837件増の2,143件が殺到し、引き合わせ件数は同199件増の245件に達した。

引き合わせ件数の大幅な底上げが急務

一方、2020年度の376件から3,178件まで増えた申し込み総数は、引き合わせ件数の約13倍に上る。2022年度第1四半期(4~6月)の申し込み総数もすでに1,418件と引き合わせ件数(91件)の16倍近くに達しており、マッチングの活発化による引き合わせ件数の大幅な底上げが急務となっている。

このため、約700社の譲渡希望企業の匿名情報を集めたWeb上の「事業承継マッチング支援ページ」内に「実名掲載の譲渡希望案件」のカテゴリーを新設。8月9日現在、飲食店や小売店、製造業者、歯科医院など全国各地の8件を掲載している。

案件ごとに業績・従業員数・売上高・経常利益・純資産の企業情報と、立地や客層などを含む事業内容、譲渡時の希望条件(譲渡金額・交渉相手)、相手方に関する希望を記載。店舗や商品・料理の写真に加え、現経営者のインタビュー記事を読める案件もあり、譲受を希望する側にとっては事業承継を決めた背景や日常業務の雰囲気などを容易に把握できる。

小規模M&Aが大半だからこそのオープンネーム

M&Aでは譲渡希望企業の従業員や取引先が不安に陥ったり、競合他社に手続きを阻害されたりするのを防ぐため、譲渡を検討していること自体が漏れないよう匿名情報だけを明かして譲受先を探すケースが多い。

一方、情報を伏せると事業の独自性などを明確にアナウンスしづらいため、マッチングが難航することも想定される。実名による後継者公募は、社内外のステークホルダーが限定的な従業員数5人以下の小規模層が譲渡希望の約8割を占める事業承継マッチング支援だからこそ受け入れられやすい取り組みと言えそうだ。

実名掲載企業を順次追加

実名掲載の案件の事業譲渡を希望する場合は、日本公庫を介して相手先とのマッチングを検討・実施する。実名掲載企業は順次追加される予定で、日本公庫は「譲受希望企業の情報ニーズに応え、マッチングをより推進していく」としている。

文:M&A Online編集部

関連リンク:事業承継マッチング支援 「オープンネームによる後継者公募」を開始