工作機械業界で再編の足音がにわかに高まっている。今夏、業界を騒がせたのが中堅のTAKISAWAに対するモーター大手、ニデックによる買収予告。敵対的買収の可能性もあったが、TAKISAWAが最終的に同意した。ニデックにとってこの2年余りで国内工作機械メーカーの買収は3社目となる。一方、8年ぶりの買収を発表したのは業界最大手のDMG森精機。クラボウ傘下で同業の倉敷機械(新潟県長岡市)を10月に子会社化する。
ニデックがTAKISAWAへの買収を予告したのは7月半ば。TAKISAWAの完全子会社化を目的に最大166億円を投じてTOB(株式公開買い付け)を行うと発表した。
この時点でTAKISAWAはTOBへの賛否を示していなかったが、ニデックは同意が得られなくても9月14日からTOBを始めるとしていた。このため、敵対的買収に発展するかどうかが注目されていた。
TAKISAWAはTOB開始前日に買収の受け入れを表明。ニデック傘下で企業価値の向上や新たな成長を目指す考えを示した。
TAKISAWA株の買付価格はTOB公表前日の終値(1447円)に約80%のプレミアム(上乗せ)を加えた1株2600円。同社の株価は買付価格のぎりぎりまでサヤ寄せされているため、TOB成立は確実視されている(買付期間は10月27日まで)。
ニデックといえば、M&Aが同社の代名詞の一つ。これまで国内外で70社余りの企業を買収しているが、近年、アクセルを踏み込んでいるのが工作機械分野だ。
2021年8月に三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)を買収して工作機械事業に参入。22年2月にOKK(現ニデックオーケーケー)、23年2月にはイタリアのPAMAを傘下に収め、今回のTAKISAWAで4社となる。
TAKISAWAは1922年創業の老舗で、工作機械市場の約30%を占める代表的機種の旋盤を主力とする。2023年3月期の売上高は279億円。同社が加わることで、ニデックにおける工作機械事業のグループ売上高は1000億円に迫り、業界の2番手グループに位置するツガミ、ブラザー工業(部門売上高)あたりと並ぶ。
工作機械業界は売上高が5000億円に迫るDMG森精機を頂点に、2000億円台のオークマ、牧野フライス製作所とヤマザキマザック(売上高は非公表)が大手4社を形成する。
横一線だった大手4社から一気に抜け出したのがDMG森精機。旧森精機製作所が2015年に欧州最大手のギルデマイスター(ドイツ)を子会社化したのが原動力となった。買収金額は約2200億円に上った。
この時以来、8年ぶりの買収に動いたのがDMG森精機だ。ターゲットの倉敷機械はDMG森精機が製造していないCNC(コンピューター数値制御)横中ぐりフライス盤を主力製品とし、国内シェアは約40%という。親会社のクラボウが持つ全株式を45億円で10月末に取得する。倉敷機械はクラボウの出資で1938年に工作機械の製造を目的に設立された日本重工業を前身とする。
CNC横中ぐりフライス盤は航空・宇宙、新エネルギー、重機械産業で需要が膨らんでいる。DMG森精機は欧州での強力な販路を生かし、拡販につなげる構えだ。
工作機械業界ではDMG森精機のケースを別として、国内同業間の本格的なM&Aはわずかにとどまる。古くは2002年に当時の森精機(現DMG森精機)が経営破綻した日立精機から事業を承継した。2011年にはシチズンマシナリーとミヤノが合併(現シチズンマシナリー)したが、これを最後に途絶えていた。
こうした状況に風穴を開ける形になったのがニデックによる異業種からの参入だ。わずか2年余りで今回のTAKISAWAを含めて国内で3社、海外で1社の買収となれば、ニデック脅威論が台頭し、業界が身構えるのも無理はない。
ニデックは当初、主力のモーターや減速機、EV(電気自動車)用駆動装置などの製造に欠かせない工作機械をグループ内に取り込み、価格競争力の向上などにつなげることを主眼としていた。だが、今では工作機械事業そのものを新たなビジネスの柱として育成するスタンスに完全に軸足を移している。
実は、工作機械はそれほど大きな業界ではない。2023年の受注総額の予想は1兆6000億円(前年比9.1%減)で、大小合わせて100社以上の工作機械メーカーがひしめく。これに対し、ニデックの売上高は2兆2000億円を超え、資金力も強力だ。
ニデックは今後さらに工作機械メーカーの買収を進める構えで、株式市場では次の買収の標的がどこになるのかに早くも関心が移っている。ニデック旋風を契機に、業界内では合従連衡を模索する動きも広がりそうだ。
文:M&A Online