【日本調剤】医薬分業という企業理念が支えるM&A戦略とは

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貫かれる「医薬分業」の企業理念
M&Aから見える薬局への思い
 日本調剤<3341>は、ここ15年の間に売上高が206億円から1,818億円へと8.8倍に、経常利益は2億8,000万円から60億円へと20倍以上にまで急成長した(下図参照)。ただ、業績の拡大に目を奪われがちだが、それはあくまで結果である。同社を急成長に導いているのは、まさに「医薬分業」という企業理念そのものだ。日本調剤のここまでのM&Aの歴史と関連事項をまとめてみた。

■日本調剤の売上高、経常利益の推移


■日本調剤が行った主なM&A

実行日 M&Aと重要イベント
1970.3 調剤薬局事業を目的として北海道札幌市で設立
1995.4 本社を東京に移転
2004.9 東証第二部に上場
2005.1 日本ジェネリックを設立(100%)
2005.9 アイセイ薬局に出資(4.8%)
2005.10 フジアポデコほか2社(売上高11億円、5店舗)を5億円で買収
2005.11 西武調剤センター(売上高1億円、1店舗)を買収
2005.11 チバイノン(売上高3億円、1店舗)を1億円で買収
2005.12 アイセイ薬局と業務提携
2006.4 日本ジェネリックがジェネリック医薬品の販売を開始
2006.4 メディアヴァンス(三井物産など出資会社)と医療モールの展開について業務提携
2006.9 東証第一部に指定替え
2006.10 医療システム研究所(売上高14億円、3店舗)を買収
2007.6 札幌薬剤(売上高12億円)を買収
2007.10 米ファイザーよりつくば市の製薬工場を15億円で買収、ジェネリック医薬品の自社製造に参入準備
2008.10 マツモトキヨシとの業務提携協議を開始
2008.12 弥生調剤薬局(売上高5億円)を買収
2009.1 みどり薬局(売上高4億円)を買収
2009.5 中島薬局(売上高11億円)を買収
2009.9 アイセイ薬局との業務資本提携を解消
2009.9 マツモトキヨシとの業務提携協議を中止
2010.1 厚生堂薬品(売上高10億円、1店舗)を買収
2010.4 アイケイファーマシー(売上高37億円、5店舗)を稲畑産業から推定34億円で買収
2010.10 ジェネリック医薬品の自社製造を開始
2010.11 老人ホーム検索サイトを譲受
2011.2 西華堂(売上高2億円、2店舗)を買収
2011.2 メディカルセンターフジほか2社(売上高15億円、11店舗)を買収
2011.3 全都道府県への出店を達成と発表
2011.4 有鄰(売上高5億円、1店舗)を買収
2012.1 ワールド薬局(売上高4億円、1店舗)を買収
2012.10 長生堂製薬と包括的企業提携
2013.4 長生堂製薬(売上高107億円)を33億円で子会社化(出資比率57.0%)
2013.5 64億円を投じてジェネリック子会社の生産能力を増強すると発表
2014.10 テバ製薬の製薬工場を21億円で買収

 調剤薬局の買収に目を向けると、1店舗当たりの売上高の大きさに気づく。公表資料から売上高や店舗数を認知できるデータを集計すると、買収した調剤薬局の1店舗当たりの売上高は3.29億円となっている。一般に、薬局がM&Aの対象になるかどうかは、1店舗当たりの年間売上高が1億円に達しているか否かで判断される。従って、平均が3億円というのは高いレベルである。ここから日本調剤は、1店舗当たりの質を重視してM&Aを行っていることがうかがえる。

先行投資が開花
ジェネリック医薬品で強み
 一方、ここ数年の動向では、医薬品製造関係のM&Aと投資が目立つ。国が医療費削減の切り札としているのがジェネリック医薬品(後発医薬品)の普及である。そのジェネリック医薬品製造を手掛けているのは調剤薬局チェーンでは日本調剤だけだ。投資額が薬局を1店舗出店するのとは訳が違う。さらに製造業者としての責任は小売業者のそれより格段に重い。実際、医薬品製造関連の買収や設備投資に投じた資金は判明しているだけで133億円に達する。しかもジェネリック医薬品製造に参入した直後の2006年3月期から12年3月期までは7期連続の営業赤字で、その間の累積赤字は42億円に達していたのである(下図参照)。

 13年3月期からは黒字転換し、15年3月期は医薬品製造部門で18億8000万円の営業利益を計上するまでにった。本業である調剤薬局事業の伸びにかき消されてしまいがちだが、医薬品製造部門も着実に成長している。

 10年3月期に売上構成で5%しかなかった医薬品製造部門が15年3月期には14%にまで成長している(部門間売上相殺前の割合)。まさに執念である(下図参照)。 

■部門売上構成の変化

 巨大なリスクを取っているのも「医薬分業」という企業理念を実現するためだが、大胆な投資ができるのは、創業 家の持ち株比率が50%を超えており、支配権が安定しているという背景がある。

 オーナー経営でなければ医薬品製造業への巨額投資、さらに7年連続の巨額赤字に耐えることは難しい。もちろん、創業家の持ち株比率の高さには副作用もある。

 日本調剤は自己資本比率が10%台と低く、過去のエクイティファイナンスは株式公開時に52億円を調達したほかは、06年6月に公募増資で25億円を調達した程度だ。この先に起こりうる調剤薬局の再編劇に備えるため、また、ジェネリックメーカーとしての地位を確固たるものにするために、これから先も資金需要は強いはずである。

 財務基盤の強化が日本調剤の課題だ。課題をクリアして積極果敢なM&Aに取り組み、同社の目指す「真の医薬分業」を実現することに期待したい。

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部