新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のための緊急事態宣言が解除されて10日余りが過ぎた。東京都では同宣言解除前には1ケタにまで減少していた感染者が2020年6月2日に34人確認され、第2波の警戒を呼びかける「東京アラート」を初めて発動した。
北九州市では同日までの11日間で119人の感染者が発生し、北九州市の北橋健治市長は「今の状況をひと言で言うならば第2波の真っただ中にいる」と危機感をあらわにしている。全国的に感染爆発の第2波がやって来たら、国は再び緊急事態宣言を出すのか?出すとしたら、どのタイミングになるのか?
今後、感染者の増加は避けられない見通しだ。理由は二つある。一つはワクチンがなく集団免疫を獲得していない現在の状況下で、緊急事態宣言が解除されたために仕事やプライベートで外出する人数が増えて感染の可能性が高まること。
NTTドコモの端末移動データによると、6月1日の東京都心への人出は同宣言が解除された1週間前の同5月25日に比べて約1.5倍に増えている。新型コロナウイルスの感染から発症までは2週間程度なので、6月8日以降に東京圏の感染者が増加するリスクは高い。
もう一つはPCR検査の増加だ。北九州市は5月25日に感染の有無を調べるPCR検査の対象を従来の濃厚接触者のうち発熱などの症状がある人から、無症状の人を含めた濃厚接触者全員へ拡大。同23日にさかのぼって検査をしたところ、感染者が続々と判明したのだ。感染者自体が増えたわけではないが、これまで見つかっていなかった感染者がが明らかになったということだ。
東京都でも6月3日にプロ野球球団・巨人の選手2人が陽性と判明したが、これも巨人が大学との共同研究で選手や球団職員の希望者全員に新型コロナウイルスの感染歴を調べる抗体検査を実施したことで明らかになった。今後、抗体検査やPCR検査が積極的に実施されるため、無症状者を含めて感染者は全国で増えるだろう。
では、国はどのタイミングで緊急事態宣言を再び出すのだろうか。おそらく感染者数が爆発的に増えたとしても、国民に警戒を呼びかけるだけで営業自粛要請などを含む緊急事態宣言を二度と出すことはないだろう。都道府県知事の権限で営業自粛要請をすることを止めることはないだろうが、国の緊急事態宣言なしに自治体が率先して取り組む可能性は低い。
事実、東京都は「東京アラート」を発動したものの、都民に「夜の外出は控えてほしい」と呼びかけただけで、飲食店をはじめとする事業者への営業時間短縮や再度の営業自粛要請には踏み込んでいない。
小池百合子都知事は「感染拡大の状況次第では休業を再要請する可能性もある」としているが、再要請の目安となる「新規陽性者50人」を超えても「接触歴等不明率」などその他の指標の状況もみた上で検討するという「逃げ道」を用意している。
国も自治体も休業要請の「見返り」となる休業補償問題で頭を痛めている。巨額の財源もさることながら、対象となる中小零細企業数が多く事務処理に手が回らない。さらに補償を受けた事業者からも「少なすぎる。休業による収入減に全く見合わない」との強い批判がある。
再度の休業要請となると、追加の補償を求める声が巻き起こるのは必至だ。ならば東京都のように消費者側に利用自粛を呼びかけた方が、店舗や事業者側の「自己責任」として補償問題を回避できる。
問題は休業補償だけではない。企業の人員削減により失業者が増えるなど、コロナ禍による景気低迷は社会に深刻な影響を与えている。緊急事態宣言を再度出すことで、日本経済をさらに冷え込ませることだけは何としても避けたいのが国や自治体の本音だろう。
2020年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は年率換算で3.4%減だったが、同4~6月期は緊急事態宣言による外出自粛や飲食店・百貨店などの休業でさらに大きく落ち込む見通しだ。再度の緊急事態宣言発令となればマイナス成長が長期化するのは避けられない。
海外でもロシアやインドなどが、感染者や死亡者の増加が続いているにもかかわらず、6月に入ってロックダウン(都市封鎖)を緩和し始めている。これ以上の継続は、自国経済を徹底的に破壊しかねないとの懸念からだ。
日本でも安倍晋三首相が緊急事態宣言解除を発表した会見で「最悪の場合には残念ながら二度目の緊急事態宣言発出の可能性もある」としながらも、「外出自粛のような社会経済活動を制限するようなやり方はできる限り避けたい」と強調している。
国民に「油断」させないよう再度の緊急事態宣言をちらつかせながらも、二度と緊急事態宣言は出したくないのが本音だろう。
国や自治体にとって幸いなことに日本の新型コロナウイルス感染症による死亡者数は6月4日時点で903人と、米国(10万6696人)や英国(3万9728人)、イタリア(3万3601人)などに比べて圧倒的に少ないうえに、新たな検査で陽性となった感染者の多くは無症状者だ。
新型コロナウイルスが約100年前に起こった「スペイン風邪」の第二波のように強毒化して致死率が跳ね上がりでもしない限り、感染者が急増しても国や自治体は警戒を呼びかけながら「様子見」を続け、感染の自然終息を待つことになるだろう。
文:M&A Online編集部