先日、永谷園ホールディングス<2899>が英国のブルームコを約150億円で買収すると報じられた。ブルームコの傘下には世界有数のフリーズドライ食品会社チョウサー・フーズ・グループがあり、永谷園はこれまで培ってきたフリーズドライ加工技術にさらに磨きをかけて海外展開を加速する狙いだ。約150億円という買収額のうち、40%は官民ファンドの産業革新機構が出資。永谷園にとって“攻め”となるこの買収は、世界市場を視野に入れた大きな勝負といえる。
永谷園の主軸となるのは、同社を代表するロングセラー商品「お茶づけ海苔」や「おとなのふりかけ」といったお茶づけ・ふりかけ類をはじめ、即席みそ汁などのスープ類、「すし太郎」「麻婆春雨」などの調理食品類の3本柱からなる食料品事業で、売上の80%以上を占める。1953(昭和28)年の創業以来、「味ひとすじ」の企業理念のもと、国内市場向けの加工食品を中心に事業を拡大してきた。
しかし、少子高齢化などで国内市場が冷え込むなか、これまで通りというわけにはいかないと、永谷泰次郎氏が社長に就任した2012年以来、新事業への挑戦を重要課題としている。
新事業への挑戦の大きな第一歩が、創業60年を迎えた2013年10月に行われた麦の穂ホールディングスの買収だ。同社はシュークリーム専門店の「ビアードパパの作りたて工房」などのスイーツ事業や「古式讃岐うどん〜温や〜」などのレストラン事業を手がけ、「ビアードパパ」の業態をメインに中国や韓国、台湾といったアジアのほか、米国やカナダなどで積極的に海外展開をしてきた。買収時点でその店舗数は約200店。これらの海外拠点は、これまで国内市場に注力してきた永谷園にとって大きな魅力であったのは間違いない。買収金額は100億円近くとなり、永谷園創業以来の大型買収となった。
それまでの永谷園の海外事業はというと、米国でのテイクアウトの寿司事業や中国での製麺事業といったもので、売り上げは10億円にも満たないほどの規模。食文化の違いから、主力商品のお茶づけ海苔やみそ汁などが海外で受け入れられることは難しいとの見通しで、海外事業への投資には積極的ではなかった。しかし、同年12月には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的な和食ブームや健康志向も追い風となり、永谷園にとって海外市場は大きなチャンスの場に変わったといえる。
今年7月には、中国での麺事業拡大を図るため、香港系の投資会社と現地に合弁会社を設立すると発表。2011年から既に中国での麺事業は手がけていたが、中国での食に対する安全意識が高まったことから、日系の食品メーカーに注目が集まっており、今後の需要の増加が見込めると踏んだ。
そして、今回のブルームコ取得のカギとなるフリーズドライ食品は、実は日本国内でも成長著しいマーケットだ。フリーズドライタイプの即席みそ汁だけを見ても、その売り上げは2008年から2014年の間に約5倍にも成長しており、市場規模は2014年時点で約1000億円といわれている。フリーズドライ食品は非常食として既に高い評価を得ているが、その技術とともに再現できる味も進化・多様化し、日々の食事に取り入れても何ら遜色はなくなってきた。常温で長期保存でき、お湯を注ぐだけで食べられるので、忙しい人やひとり暮らしのシニア世代にも重宝されている。
ブルームコが持つフリーズドライ加工技術と英米や中国などの製造・販売網を手に入れた今、永谷園はよりクオリティーの高い商品を国内外に向けて供給できるようになるだろう。同社の代名詞ともいえるお茶づけも、日本の食材や食文化がフリーズドライで海を渡るようになれば、寿司や天ぷらなどと並んでその存在を世界にアピールできるはずだ。
文:M&A Online編集部