M&Aは採用手法の一つ「マイナビM&A」西永賢二社長に聞く

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マイナビM&A(東京都千代田区)は、中小企業の事業承継を手助けすることで、企業の存続と雇用の維持に取り組んでおり、スタートアップやベンチャー企業のM&Aや資金調達の支援による雇用の創出にも力を入れている。

約30社からなるマイナビグループのHR (ヒューマンリソース=人的資源)力を活用し、PMI(M&A後の統合作業)に重点を置くことで、目標達成を目指すという。同社の西永賢二社長に、事業の現状やM&A業界の課題などについてお聞きした。

マイナビの資産を活用

-御社は2021年4月に、就職、転職情報の提供や人材派遣などを手がけるマイナビ(東京都千代田区)の100%子会社として設立されました。もうすぐ事業をスタートして2年が経とうとしています。この間の実績や当初予想との差異など現状をお教え下さい。

M&Aはやはり簡単なものではないなというのが実感。社員の採用も難しい。M&A人材については取り合いのような現象があり、人材紹介手数料が高騰している。わが社は違うルートで、M&A仲介の未経験者を中心に採用しているが、それでもなかなか難しい面がある。

この2年近くで会社としての体制は整ったので、今後は人員を増やすことで事業を拡大路線に乗せたい。今後もいろんな課題がでてくるだろうが、一つひとつと解決して成長させていく。

-PMIを重視されています。どのような状況ですか。

M&Aの成立案件が、まだそれほど多くないので、今は案件成立後に採用のお手伝いする程度にとどまっている。今後はさらに経営に踏み込んだ支援策を考えており、採用だけでなく、人事、組織、制度設計などにかかわっていきたい。

マイナビグループには組織診断サービスを提供している部門があり、「このような問題があるので、こうした対策を打ちましょう」といったより実践的な提案を行える基盤がある。今後はそうした部門・グループと連携し、PMI計画などを作成して提案していくことを構想として持っている。

-これもマイナビグループのヒューマンリソース力の活用事例の一つになるのですか。

確かにそうだ。当初考えていたのはマイナビの営業担当者に、M&Aが人材採用の一つの手段であることを顧客に案内してもらうことで、M&A成立前の候補企業探しを中心にマイナビグループのヒューマンリソース力を活用することだ。だが、M&A仲介業務を実際に行い、顧客と相対することで、成立後のPMIでもマイナビの資産を活用できると考えている。

AIで売り手と買い手をマッチング

-個人が小規模事業者を譲り受ける「個人M&A」「スモールM&A」にも力を入れているそうですね。

マイナビグループとして膨大な接点を有する求職者がM&Aにおける買い手になり得ると考えている。転職するだけでなく、働き方の一つとして小さな会社の小さな事業を受け継ぐことができるだろう。マイナビは年間100万人ほどの転職ユーザーをかかえている。このうち独立したいと考える人が0.1%いると、それは買い手が1000人いることになる。

具体例を挙げるとマイナビ独立というサービスを提供している部門と協議を進めており、近いうちに何らかの形になりそうだ。独立に関する情報は多くあるが、コンビニを代表とするフランチャイーズ加盟が大きな割合を占める。わが社では、例えば従業員は数人だがずっと黒字を続けているような企業を紹介し買い手になってもらうことも独立の一つの形であるとを考えている。

-サーチファンド(個人が投資家からの資金援助を受けM&Aによって経営者になる仕組み)のような動きですね。

確かにサーチファンドに似ているだろう。求職者が会社を買収して、ファンドに資金を提供してもらうことも考えている。わが社自体がファンドを作ることもありかも知れない。サーチファンドはサーチャー(経営者になろうとする個人)を探すところから始まるが、マイナビグループが抱える求職者データベースの活用が進めば、その中から適切な人材を探すことができる。

-M&A業界に新たに参入する企業が数多くあります。業界の課題や解決策についてどのようなお考えをお持ちですか。

もう少しDX(デジタルトランスフォーメーション=デジタル技術で生活やビジネスを変革すること)を取り入れることで、職人気質だった業界を合理化したり効率化したりできるのでないだろうか。今、AI(人工知能)を活用して売り手と買い手をマッチングするシステムを検討中で、これが実現すれば、成約率を上げることができると考えている。

-M&Aを検討している経営者へのアドバイスはありませんか。

人材の確保をM&Aの目的にする企業が確実に増えている。IT業界や物流業界などはまさにそうで、他業界でも採用手法の一つとしてM&Aを考えてみてはどうだろうか。一方で、地方ではまだまだM&Aは胡散臭いと考えている企業が少なくない。ありがたいことにマイナビは知名度が高く、全国に60カ所ほどの拠点がある。売り手企業の方には、わが社に安心してお任せ下さいと言いたい。

マイナビM&A
西永マイナビM&A社長

【略歴】 西永賢二(にしなが・けんじ)氏

1992年、毎日コミュニケーションズ(現 株式会社マイナビ)に入社。就職情報誌の営業に従事。
2000年、同社IT事業部に異動。転職情報サイト(現 マイナビ転職)を立ち上げ、営業に従事。
2006年以降、大手チーム部長、人材紹介会社向けサービス事業部長を歴任 。
2021年4月、マイナビM&Aを発足し、同社代表に就任。

聞き手・文:M&A Online編集部 松本 亮一