新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受け、生活に困窮する人が増えている。
映画『東京難民』は、親の失踪によって学費が未納となり、大学を除籍された主人公がホームレスに転落するまでの半年間を描いた作品である。
原作は福澤徹三の同名小説で、映画『半落ち』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した佐々部清監督がメガホンを取った。主人公の大学生を演じたのは中村蒼。現在、NHK連続テレビ小説『エール』に作曲家・古山裕一の幼なじみ役で出演している。
三流大学に通う時枝 修(中村蒼)は気楽な学生生活を送っていたが、ある日突然、大学を除籍されてしまう。借金を抱えた父親が授業料を未払いのまま失踪していたのだ。アパートからも強制的に追い出され、ネットカフェに泊まりながら日雇いのバイトで食いつなぐ。
時枝は、瑠衣(山本美月)に騙されて入ったホストクラブで法外な料金を請求され、仕方なくその店で働き始める。仕事はきついものの、瑠衣に連れられて来店した茜(大塚千弘)が客としてついた。先輩の順矢(青柳翔)が作った借金200万円の半分を茜に用立ててもらうが、それを小次郎(中尾明慶)に持ち逃げされてしまう。追い詰められた順矢と修はヤクザの支配人(金子ノブアキ)から逃れて飯場暮らしを始めるが……。
時枝の自宅のアパートに内容証明郵便が届くところから転落の物語は始まる。住んでいるアパートの使用料未納の通知だった。時枝は内容を確かめずに机の上に放り投げてしまう。しばらくしてICカードの学生証が使えないことがわかり、ようやく自分が置かれた状況を知る。
学生課の職員に「こんな大学辞めてやる!」と毒づくが、学費未納の場合は中退ではなく除籍扱いになるといわれる。時枝は中退と除籍の違いが分からないほど世間知らずだった。
その後、管理会社に鍵を付け替えられてアパートから強制的に締め出され、ネットカフェ難民に。ポスティングやティッシュ配りをするのだが、それは住所不定ではまともな就職ができないからだとぼやく。転落の蟻地獄のスタートである。
ハンバーガー1つで夜を明かすファストフード難民、自らの健康を担保にする治験アルバイト、常連客のツケが自分に降りかかってくるホストクラブ、体力勝負の建設会社の下請け業と、作品は格差社会の闇を次から次へと見せていく。
落ちていくのは主人公・時枝だけではない。ホストとなった時枝に貢ぎ、借金が嵩んだ看護師はソープ嬢として働くようになる。彼らはなぜ、途中で踏みとどまることができなかったのか。
人生を甘く見ていたと切り捨てることは簡単だ。しかし、一度落ちたら這い上がることが難しい格差社会の構造は簡単には変わらない。本作が描く物語は「生活困窮は誰にでも起こり得ること」だと、メッセージを放つ。コロナ危機のなかで、今こそ観たい作品である。
<作品データ>
『東京難民』
監督:佐々部清
脚本:青島武
原作:福澤徹三『東京難民』(光文社)
出演:中村蒼、大塚千弘、青柳翔、山本美月、中尾明慶、金子ノブアキ、井上順
主題歌:「旅人」高橋優(ワー ナーミュージック・ジャパン)
配給:ファントム・フィルム
2013年/日本/130分/R15
©2014「東京難民」製作委員会
文:堀木 三紀