戦後秘密裏に運用されていたとされる旧日本軍の秘密資金「M資金」をめぐり繰り広げられる攻防を描いた作品。M資金の名をネタに詐欺を働く真船(佐藤浩市)と、M資金奪還を目論む組織の一員である石(森山未來)を中心に繰り広げられる、緊迫感のある策略の応酬が見もの。
戦後日本を裏から支えてきたとされる旧日本軍が残した資産「M資金」。そのM資金をネタに詐欺を働く真船の前に、M資金を管理するという財団の使者・石が現れる。石の導きにより引き合わされた“M”を名乗る男は、真船に「財団から10兆円のM資金を盗み出して欲しい」と依頼を持ちかける。
ミスはあったものの10兆円の奪取に成功した真船達だったが、財団側から目をつけられていたMは囚われの身に。10兆円で世界を変えたいと訴えていたMの言葉に動かされた真船は、石と協力しMの救出に動き出す。
以下、ネタバレを含みます
カペラ共和国の代表として国連の壇上に立った石は、M資金の力でカペラ国民に配布されたモバイル端末(PDA)により、国が新たな一歩を踏み出したことを主張する。だがそれは単なる援助を超えた”未来への投資”。「援助は要らない。変わりなき友情を」と、一方的な憐憫を求めず、成長に向け手を取り合える未来への希望を語るそのセリフには、強大な経済力や軍事力を背景に他国との衝突を続ける現実世界の大国にむけた強いメッセージ性を感じる。
公開時の本作のキャッチコピーは「10兆円で世界のルールは変えられるか?」。ブラックマーケットに眠る莫大な資金を武器に立ち向かう経済戦争を期待させられたが、その金は貧困国に携帯端末を配布し、人々のつながりを築くことに費やされた。貧困国への援助を通じた世界融和への誘導が作品のテーマとして見え隠れするが、現実世界において10兆円は、世界の「ルール」を変えるほどの力を持つものではないことを知らしめられたことに、小さな無力感を感じざるを得ない。
主人公の真船が、架空の存在としてネタにしていたM資金。現実に存在するそれを盗み出す役割となる導入から、ロシアのファンドを騙して10兆円をせしめるまでのマネーサスペンスともいえる展開は、鳥肌が立つ思いがした。
しかしエンディングに向かい「世界を変えたい」という理想論を中心としたヒューマンドラマへ様変わりする展開が少々強引であり、後半は別の作品か?という印象も。
文:M&A Online編集部
<作品データ>
人類資金 2013年・日本(2時間20分)