カーライル ニューヨークが恋したホテル|おすすめ新作映画

alt
© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『カーライル ニューヨークが恋したホテル』

おもてなしの極意を究めるNYのアイコン的ホテル

ニューヨークのアッパー・イーストサイドにある5つ星ホテル「ザ・カーライル ア ローズウッドホテル」。このホテルの魅力を解き明かすドキュメンタリー映画『カーライル ニューヨークが恋したホテル』が、8月9日(金)に公開された。

© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ザ・カーライル ア ローズウッドホテル(以下、カーライル)は1930年に創業し、歴代アメリカ大統領やイギリスのロイヤル・ファミリーに好まれ、セレブの御用達として知られている。ザ・ピエールやプラザのような華やかなホテルではないにもかかわらず、カーライルがニューヨークのアイコン的ホテルになったのはなぜなのか。マシュー・ミーレー監督が4年間通い詰め、カーライルを愛してやまない俳優、映画監督、モデル、ミュージシャンといった著名人や一般の常連客、ホテルのスタッフにインタビューし、その理由を紐解いた。

エンパイア・スイートからの眺めは絵画のように美しく、息をのむほど


© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

まずは世界的に有名なハリウッドスターなどの著名人がカーライルの思い出を語る。これによって観客の好奇心を作品に引き寄せながら、カーライルの魅力をアピールする。

女優のアンジェリカ・ヒューストンは「(カーライルは)口の堅さが自慢」と断言し、スタッフもにっこり笑って「話せません」と口を閉ざす。これは個人レベルの話に留まらない。湾岸戦争のとき、FBIが「カーライルに滞在した国連のイラク代表のルームサービスに盗聴器を仕掛けたい」と言ってきたが、当時の総支配人だったピーター・シャープは「我々はゲストのプライバシーを守る」と一刀両断。その方針は今も続いていると取材時の総支配人は胸を張る。

俳優のジョージ・クルーニーは多くの友人たちから「家のように居心地がいい」と勧められ、今ではすっかり常連客である。「スタッフとは家族のような関係だ」と語り、スタッフもお気に入りのゲストを尋ねられると口を揃えて「ジョージ・クルーニー、(オフコース)」と興奮気味に答え、ジョージ・クルーニーと遭遇したときのワクワク感が伝わってくる。2017年には1泊2万ドルのエンパイア・スイートに夫婦で3カ月も滞在した。その部屋について、作家のアンソニー・ボーデインは「外に広がる景色の色彩が息をのむほど美しい」と絶賛。スクリーンに映し出される景色は絵画のように美しく、この作品の見どころの1つである。

俳優のジャック・ニコルソンもまた、スタッフに人気のある常連客だ。ジャック・ニコルソンとの思い出を語るスタッフたちの表情のなんと楽しそうなことか。宿泊客とスタッフの距離感の近さが“家のような居心地のよさ”をもたらすのだと思えてくる。

常連客には名前を刺繍した枕カバーを用意する。印象に残っている名前を聞かれた裁縫係は子どもたちと訪れたマイケル・ジャクソンを挙げ、マイケルは「MJ」にしたが、子どもたちはフルネームにしたと話す。スクリーンには着飾った子どもたちを連れてカーライルを訪れたマイケルの写真が映し出される。自分の名前を見てはしゃぐ子どもたちの姿が思い浮かぶ。

人をもてなし、喜んでもらう。カーライルの基本姿勢を象徴するサービスである。

ダイアナ妃が愛したホテルにウィリアム王子夫妻も宿泊

© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

カーライルはイギリス王室との縁も深い。

撮影期間中に、ウィリアム王子とキャサリン妃が初めてニューヨークを訪れ、カーライルに滞在したことが話題となった。カーライルはダイアナ妃が愛したホテルとしても知られており、ウィリアム王子がこのホテルを選んだのは母の影響があったのだろう。ダイアナ妃だけでなく、チャールズ皇太子やアン王女、ヨーク公、ウェセックス伯爵もニューヨークを訪れたときはカーライルに滞在する。

そのダイアナ妃が偶然、マイケル・ジャクソン、スティーブ・ジョブズとエレベーターに乗り合わせたとき、ダイアナ妃が「ビート・イット」を口ずさみ始めたという逸話がある。著名人がプライベートで滞在する、カーライルらしいエピソードだ。

パブリックな場で価値ある本物に触れる

作品はカーライルの文化的側面も紹介する。

「ベーメルマンス・バー」の壁には「マドレーヌ」で有名な絵本作家ルドウィッヒ・ベーメルマンスが1年半かけて描いた絵がある。“パリの寄宿舎で先生や11人の女の子と一緒に暮らすマドレーヌ”の絵本を読んで育った世代にはたまらない魅力だ。アンソニー・ボーデインは「公共の場でベーメルマンスのイラストが見られるのはここだけ」と話し、マドレーヌが女の子たちと並んで散歩する壁画がスクリーンに映し出される。デートスポットとして勧められて訪れた映画監督のウェス・アンダーソンは「ベーメルマンスのことは知らなかったが、このバーから映画『グランド・ブダペスト・ホテル』のインスピレーションを得た」と語る。

一方、「カフェ・カーライル」にはイラストレーターのマルセル・ヴェルテスがサーカスのパフォーマーや音楽家、バレリーナを描いた。

© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ここはジャズ奏者のボビー・ショートが演奏していたことでも知られている。シンガーソングライターのレニー・クラヴィッツは「親がボビー・ショートと仲がよかったので、幼い頃からスーツを着て連れてこられ、ボビーの弾き語りを聴いていた」と思い出を語る。最初のうちは体がむずむずして嫌だったが、ある日、突然、ボビーの音楽の魅力を理解したという。幼い子にも本物を与えることの大事さが伝わってくる逸話である。

本物といえば、ロビーにはオランダ人画家ヤン・バプティスト・ウェーニクスが1697年に描いた絵画が飾られている。美術史家が「このクオリティの絵画がホテルのロビーにあるのは珍しい」と話している前を宿泊客が通り過ぎる。編集でカットできるところをあえて使ったのだろう。公共の場に絵が飾られていることがストレートに伝わってきた。

顧客の秘密は厳守だが、スタッフ自身の話は伝える

カーライルのいちばんの魅力は何といってもスタッフの充実ぶり。常連客の1人はカーライルの魅力を「雰囲気がすべて。それは人によって作られる」とインタビューで答えている。7年目のコンシェルジュが「自分は新人」ということからも、勤続年数の長いスタッフが多いことが伝わってきた。

ナオミ・キャンベルや常連客から愛されるアレンは勤続20年以上のエレベーター係。エレベーターに乗った幼い女の子には振り付きの歌でもてなし、「20秒間の会話ならおまかせください」と自信を見せる。そんな彼もかつてはオフブロードウェイの舞台に立ち、ブルース・ウィリスと共演したこともある。ブルース・ウィリスがカーライルに泊まりに来たときの話は興味深い。

カーライルにはケネディ大統領と密会していたとされるマリリン・モンローのための秘密の通路があるという伝説がある。55年間ベルマンをしているダニーにそのことを問いただすと「聞いたことはあるが見たことがない。51年間探して見つからなかった」とにっこり。軽妙洒脱な答えである。

元バーテンダーのトミーは聞いた話を口外しないことで有名。ポール・マッカートニー親子やエリザベス・テイラーとのエピソードを聞いても、「話せない」のひとこと。しかし、仕事を始めて3日目だった若きトミーがトルーマン大統領にしてしまった失敗談は恥ずかしそうに語った。

ドワイエは元コンシェルジュ。2016年に退職したが、いまでも週1度はホテルに顔を出す。在職中、宿泊客に頼まれれば、どんなに予約が取りにくいお店でも何とか予約を取るので、常連客から絶賛されていた。吃音があり、特徴的な話し方をするので、ドワイエを真似て予約を取ろうとする人もいるという。

そんなスタッフたちに対して、俳優のビル・マーレイは悪態をつく。文字に起こしてしまうときつい言葉になってしまうが、ビル・マーレイの表情を見ていると、それが愛情の裏返しだと分かる。ぜひ、作品でビル・マーレイの表情を見ながら聞いてほしい。

 文:堀木三紀(映画ライター)

<作品データ>

『カーライル ニューヨークが恋したホテル』
原題:Always at the Carlyle
監督・脚本:マシュー・ミーレー 『ニューヨーク バーグドルフ 魔法のデパート』
撮影:ジャスティン・ベア 
音楽:アール・ローズ
出演:ジョージ・クルーニー、ウェス・アンダーソン、ソフィア・コッポラ、アンジェリカ・ヒューストン、トミー・リー・ジョーンズ、ハリソン・フォード、ジェフ・ゴールドブラム、ウディ・アレン、ヴェラ・ウォン、アンソニー・ボーデイン、ロジャー・フェデラー、ジョン・ハム、レニー・クラヴィッツ、ナオミ・キャンベル、エレイン・ストリッチ
配給:アンプラグド
2018年/アメリカ/カラー/16:9/ステレオ/ 92分 

© 2018 DOCFILM4THECARLYLE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公式サイト:http://thecarlyle-movie.com/
8月9日(金)よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開