フランスの著名な映画批評家、アンドレ・バザンは言っています。
「映画の美学は現実を明らかにするリアリズムであるべきだ」と。
映画とは、各時代を映し出す、鏡の一つと言えるかもしれません。そしてその鏡は、私たちが生きる現代を俯かんして見るための手助けともなるのではないでしょうか。
“今”を見つめるビジネスマン/ビジネスウーマン必見!オススメの最新映画をご紹介します。
映画『さらば愛しきアウトロー』はハリウッドの伝説、ロバート・レッドフォードの俳優引退作。レッドフォードは、実在する風変わりな犯罪者、フォレスト・タッカーを最後の役柄に選んだ。
大スターの地位を獲得した映画『明日に向って撃て!』でのサンダンス・キッドをはじめ、これまで数多くのアウトローを演じてきたレッドフォード。本作は、長年彼に魅了されてきたファンへの大サービスと、彼だからこそ届けることができるメッセージが溢れている。
1981年、アメリカのテキサス州で初老の3人組による銀行強盗事件が発生する。強盗犯のひとりフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)は15歳で初めて盗みをし少年院に入ってからというもの、脱獄と犯罪を繰り返していた。極悪非道かと思いきや、「人を傷つけない」という流儀を持つ彼は、銃は携帯していても一度も使ったことがなく暴力をふるったこともない。鮮やかな手口で盗みを繰り返すフォレストらは2年間で95件もの銀行強盗を成功させる。警察も動き出し、フォレストの事件を担当することになった刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)は捜査すればするほどフォレストの仕事の流儀に魅了されていく。
逃走中のフォレストと知り合い、親しくなったジュエル(シシー・スペイセク)も彼の優しく知性的な魅力に心を奪われる。かつてないほど大きな山を成功させたフォレストら3人組をFBIが追う中、ジュエルとますます親しくなったフォレストは、かつて結婚していたことや秘密の稼業についてもジュエルに匂わせる。そんな中、フォレストの捜査から外されたジョンの元に一通の手紙が届く。
“見る者を心地よくする男”。ロバート・レッドフォード演じるフォレスト・タッカーを一言で表現するならずばりこれだ。熟練の銀行支店長から新人の銀行受付嬢まで誰もが「紳士だ。」「幸福そうに見えた。」など彼に好印象を持ったと話す。
逃走中に知り合ったジュエルも、粋なブルーのスーツをまとったフォレストに心を掴まれる。親しくなるにつれ堅気ではないと感じていくにも関わらず、ジュエルの心に恋の炎がともる瞬間は、映像演出も伴いドラマチックで美しい。
刑事のジョン・ハントは忙しない日々に追われ、仕事に疲れきっていた。非番のジョンが、銀行で順番を待ちながら息子に「本当に好きなことをやれ。」とこんこんと諭すのと同じ場所で、いつも通り華麗に銀行強盗をやってのけるフォレスト・・・二人の人生は刑事と犯罪者でなければ交わることすらなかったかもしれない。しかし方向性こそ違えど、好きなことに生きるフォレストの姿勢にジョンは共感し、失いかけていた仕事への情熱を取り戻す。追う者と追われる者、二人が対峙するとあるシーンは何とも粋で、思わず口元がにやけてしまう。
フォレストは不思議な人物だ。銀行強盗などしなくても、大抵のことなら何をやっても大成できただろうに、なぜ足を洗わないのかと多くの人が疑問に思うだろう。「楽になんて生きたくない。楽しく生きたい」彼の言葉はじんわりと私たちの心を熱くする。
自身も映画監督を務めるレッドフォードだが、本作は若き才能デヴィッド・ロウリーに監督をオファーし、フィナーレを次世代へと託した。フォレストそしてレッドフォードの生きざまを目の前に、"人生をどう生きる?"と、自分自身に問いかけずにはいられない。
そして、我らがレッドフォードはやはり最後の最後までかっこいい・・・同時代に生き、その引退作をスクリーンで観れるなんて幸運だ。アウトローよ、永遠に!
映画『さらば愛しきアウトロー』
7月12日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて大ヒット公開中!
英題:THE OLD MAN & THE GUN
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、シシー・スペイセク、ダニー・グローヴァー、トム・ウェイツ
文:宮﨑千尋(映画ライター)