FBIの尋問記録を再現した緊張感あふれる映画『リアリティ』

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主人公は国家機密の漏洩で逮捕された25歳の女

2017年6月、米国ジョージア州オーガスタ。米国家安全保障局(NSA)の契約社員だった25歳の女性、リアリティ・ウィナーが逮捕された。罪状は国家機密の漏洩。ロシアのハッカーによる2016年アメリカ大統領選への介入疑惑に関する報告書をメディアにリークした容疑で、「トランプ大統領の誕生はロシア政府に仕組まれたものだった」という政権を揺るがすセンセーショナルなニュースは世界中を驚愕させた。

2019年に、ニューヨークの現代演劇における新進気鋭の劇作家であるティナ・サッターが、FBIによるリアリティの尋問記録の文字起こしをそのまま脚本化し、舞台を制作。公演の成功を受けて、サッター自身が監督・脚本を手掛け映画化された。多彩な映像・音声表現を駆使して尋問の緊迫感を再現。第1級の“スリラー作品”に仕上がった。

<STORY>

リアリティ・ウィナーが買い物から帰宅すると、見知らぬ2人の男性に声をかけられる。笑顔を向け自らFBI捜査官だと名乗る彼らは、ある事件に関する捜査を行っていると告げる。「引っ越してどのくらい?」「ペットはいる?」…。気さくで穏やかな口調のまま何気ない質問を繰り返す彼らだったが、会話は徐々に、国家機密の漏洩事件の真相へと切り込んでいく。

脚本のセリフはすべて尋問記録の文字起こし

「FBIはこの日の出来事を録音していた。本作のセリフはすべて、その書き起こしである」。本作の冒頭で流れるこの一文に、思わず身を乗り出してしまった。そう、この映画は事実の再現なのだ。

何人ものFBIの捜査員がリアリティの家に突然押しかけ、事件の現場であることを示す立ち入り黄色のテープを家の回りに張り巡らせて物々しい雰囲気を醸し出す。尋問が進むにつれ、捜査官は機密漏洩の事実を、証拠を含め把握していることが明らかになってくる。

「なぜ、国家機密を漏洩したのか」。捜査官の質問は真綿で首を絞めるようにじわじわと核心に迫っていき、観ている側もまるで自分が追い詰められていくような息苦しさを覚える。実際にあった尋問の再現であることを思うと、緊張感は一層高まっていく。

米国の若者が抱えるさまざまな矛盾を体現するリアリティ・ウィナー

サッター監督はこの機密漏洩事件が起きてから半年後に、事件とリアリティ・ウィナーのプロフィールの詳細をインターネットの記事で知ったという。FBIの尋問記録は記事にリンクが張ってあったものを読んだ。

筆者が10月におこなったサッター監督へのインタビューで、同監督は尋問記録を読んだ感想をこう振り返る。「リアリティは今のアメリカを生きる若者の2面性を持ち合わせたキャラクターだと感じました。尋問記録はまるでスリラーのようで、それをそのまま映像にすることにワクワクしました。何が起きるかはみんな知っているが、それがどうやって起きるのか。彼女という人間を含めて意外性がありました」。

主人公リアリティ・ウィナーを演じたシドニー・スウィーニーは、アメリカでTVドラマを中心に活躍する26歳の女優である。脚本を読み込み、メールなどでリアリティと対話することで彼女の話し方を徹底的に研究し、役を作り上げていったという。公式インタビューで、シドニー・スウィーニーはこう語っている。

「私にとってリアリティは2017年当時の典型的なアメリカの若者のように感じられました。彼女の言動にはあらゆる矛盾が見えるのです」「初めて脚本を読んだ時、その奇抜さ、面白さ、ダークさに魅了されました。リアリティは女性、退役軍人、ミレニアル世代であるということから向けられる世間の安易なイメージを覆すような、たくさんの複雑な側面を持っています。そこにはいろいろな矛盾もあって、彼女はその興味深い矛盾を体現するような存在なのです」

映像・音声を駆使して内面の揺らぎを表現

リアリティを機密漏洩へと突き動かしたものは何なのか。漏洩に至った理由をソフトかつ執拗に尋ねる捜査官の質問に対し、リアリティの答えはときに矛盾したものとなる。本作ではさまざまな映像や音声の表現を駆使して、揺れ動くリアリティの内面や緊迫感を表現している。過去の出来事をニュース記事やSNSの投稿で表したり、尋問中の発言を音声の波形で映したり、映像が突然スローションになったりもする。

尋問記録の黒塗り部分の表現も面白い。サッター監督は「黒塗りの部分は言葉が取り除かれているので、言葉の代わりに役者を取り除いてしまったらどうだろうか。そう考えて試してみたら、シンプルでパワフル。テンションがずっと感じられて、これならいけるなと思いました」と語る。

NSAで諜報関連の業務に携わっていたリアリティはペルシャ語などイランやアフガニスタンで使われる言語を専門としていたが、彼女が中東に興味を抱いたのは父親の影響があったとされる。トランプ政権下で米国を揺るがせた機密漏洩事件の犯人の名前が“Reality”(事実、真実、現実性)であるとは、なんという巡りあわせなのだろう。しかもファミリーネームは“Winner”である。日本語にすれば、さしずめ「勝者真実」となるだろうか。

映画による尋問記録の再現という挑戦は、シドニー・スウィーニーというリアリティ・ウィナーと同世代の演者を得て、リアリティの実像に迫ることに成功したと言えるだろう。

文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
題名:『リアリティ』 
原題:REALITY
監督:ティナ・サッター
脚本:ティナ・サッター、ジェームズ・ポール・ダラス
出演:シドニー・スウィーニー、ジョシュ・ハミルトン、マーチャント・デイヴィス
配給:トランスフォーマー
2023年/アメリカ/英語/82分/ビスタ/カラー/5.1ch/G/日本語字幕:額賀深雪
公式サイト https://transformer.co.jp/m/reality/
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11月18日(土)シアター・イメージフォーラム、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー