夏休みに開催される人気演劇スクールの校長が開校目前に倒れて、昏睡状態に陥る。演劇に関心のなかった息子が継ぐが、経営破綻寸前だった…。
映画『シアター・キャンプ』は演劇スクールを存続させるため、出資者を満足させる新作ミュージカルに挑む人々の奮闘を笑いを散りばめながら描いた作品だ。監督と脚本を務めたモリー・ゴードンとニック・リーバーマンの幼いころの経験を着想のきっかけに、アメリカのエンタメ界を牽引する新世代のスタッフ、キャストが結集して作られた。
サンダンス映画祭でワールドプレミア上映が行われ、USドラマチック審査員特別アンサンブルキャスト賞を受賞。熾烈な争奪戦の末にサーチライト・ピクチャーズが配給権を獲得した。
<STORY>
ニューヨーク州北部の緑豊かな湖畔に佇むシアター・スクール、アディロンド・アクト。長年ミュージカル・スターを目指す子どもたちを集めるこのスクールで、今夏のキャンプ開校を目前にして校長が昏睡状態に。演劇に無関心な息子トロイが経営に乗り出すが、内情は予想以上に火の車…。皆が愛するスクールの存続のため、キャンプ終了までに出資者の前で新作ミュージカルを披露しなければならない。
残された時間は3週間。変わり者揃いの教師と破天荒な子どもたちは果たして舞台を完成させ、スクールを存続させられるのか…?!
夏休みに共同生活をしながら演劇を学び、舞台を作り上げていく期間限定のスクールがアメリカでは子どもたちに人気のイベントとして定着しているという。監督を務めたモリー・ゴードンとニック・リーバーマンも子どもの頃に参加したことがあり、そこでの経験に着想を得て本作は作られた。
脚本にはゴードンと共演経験のあるノア・ガルヴィンと、ガルヴィンの親友ベン・プラットも加わっているが、彼らもシアター・キャンプ経験者。作中にはゴードンとプラットが幼少期に舞台で共演した実際の映像も映し出される。この4人の10年に渡るコラボレーションから脚本が作られた。
本作はシアター・キャンプ「アディロンド・アクト」の校長ジョーン・ルビンスキーが素質のある参加者探しに奔走しているところから始まる。人気のあるスクールと思われているが、実際は経営難に直面しているのだ。ところがスカウトのため、高校で上演されているミュージカルを見ていたときに倒れて、昏睡状態に陥ってしまう。ジョーンの息子トロイが経営を引き継ぐことになるが、YouTuberのトロイは演劇の知識が乏しい。
ガルヴィンが演じたステージマネージャーのグレンが「ストレートプレイ」という言葉を使ったときに「ゲイの劇とは?」と真面目な顔で聞いてしまう。演劇をかじったことがある人なら思わず笑うシーンだろう。しかし、トロイの疑問は演劇に疎い人の気持ちを代弁する。
随所に過去のミュージカルの名曲を取り込み、詳しい人の心をくすぐる一方で、トロイを配したことでミュージカルに疎い者でも楽しめる作品になった。ちなみにストレートプレイとは、セリフに音楽を用いない、いわゆる一般的な舞台演劇のことである。
母親が演劇スクールを営んでいるにも関わらず、トロイはこれまでスクールとは距離を置いていたようだ。経営難について早急な対応が求められている状況だが、トロイとスクールのスタッフは協力体制ができていない。
トロイは持ち前の起業家精神を発揮しようとする。例えば、YouTuberとしてSNSを使ってキャンプをアピールし、有名な投資系ユーチューバーをキャンプ最終日に実施するミュージカルに招待し、資金調達のためインフルエンサーとしての影響力を期待した。また空き部屋を使ってロータリークラブを運営し、利益をキャンプに還元することを考えていた。あくまでも起業家としての発想である。
一方のスタッフ側は、ゴードンが演じる音楽指導講師のレベッカ・ダイアンやプラットが演じる演技指導講師のエイモスが、スクール最終日に最高のオリジナルミュージカルを上演し、出資者に今まで以上の出資をしてもらうことがスクールの立て直しに繋がると考えていた。
しかし、どちらもなかなかうまくいかない。トロイは「アディロンド・アクト」の隣にあるライバルスクール「レイクサイド」を経営するバーンズウェルの代理人から売却を打診される。
グレンから猛反対されて、いったんは断るものの、策が尽きて契約書にサインをしてしまう。一方、ダイアンは自らの将来を模索していて、子どもたちのミュージカルに支障が出てくる。
映画は子どもたちが演じるオリジナルミュージックでクライマックスを迎える。直前までハプニングが続き、上演さえ危ぶまれたが、みなで協力し、無事、幕が上がる。校長ジョーンの生涯を描くことで、ミュージカルの歴史が紐解かれていく。子どもたちのがんばりにミュージカルに疎い者でも引き込まれ、胸が熱くなる。
その先がどうなったのかは、ぜひ劇場で見届けてしてほしい。まったく連携の取れていなかったトロイとスタッフだが、それぞれの奮闘が結びつき、結果として見事な連係プレーとなり、奇跡的にも状況は好転した。
さらに、トロイはミュージカルを見て、自分がいかに母から愛されていたのかを知る。トロイがそれまで母の事業に距離を置いていたのは、母を演劇スクールの子どもたちに取られてしまったという寂しさがあったのかもしれない。スタッフの中には新たな道を歩むものも出た。本作は演劇を学ぶために集まった子どもたちの成長を描くように思わせて、実は道に迷った大人の成長譚だったのだ。
文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)
<作品データ>
『シアター・キャンプ』
出演:モリー・ゴードン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』), ベン・プラット(『ディア・エヴァン・ハンセン』『ピッチ・パーフェクト』), ノア・ガルヴィン(『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』)ほか
監督:ニック・リーバーマン&モリー・ゴードン
脚本:ノア・ガルヴィン, モリー・ゴードン, ニック・リーバーマン, ベン・プラット
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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2023年10月6日(金)公開
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/theatercamp