経済や金融業界のリアルな姿を垣間見たいのなら、映画がおすすめ! 特に本を読むのが苦手な人や異業種で働く人には、映像で見るのは分かりやすく、2時間程度なので手っ取り早い。実話をベースにした作品もあるので、世の中の経済事件を理解するのにも一役買ってくれる。多少専門用語も出てくるものもあるが、映画をきっかけに勉強してみるのもおすすめだ。エンターテインメントとしても楽しめる、おすすめの1本を紹介する。
企業買収(M&A)をテーマにした映画は数あれど、サスペンスを融合させる作品は少ない。
「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」はリチャード・ギア演じる大物投資家が、運命を懸けた自社売却に挑む最中に、自らが引き起こしてしまった事件の隠ぺいを目論む上質のクライムサスペンスだ。
ロバート・ミラー(リチャード・ギア)は大物投資家として仕事で大成功を収め、家庭においては多くの子や孫に囲まれる絵にかいたような成功者。しかしその裏ではロシアの銅山への投資に失敗し巨額の負債を抱えていた。会社の取締役である娘ブルック(ブリット・マーリング)へも明かせないロバートは、負債を返済するためにスタンダード銀行への自社を売却する手はずを進めていた。
ある日、ロバートは愛人のジュリー(レティシア・カスタ)を連れ別荘に向かう途中、心労から居眠りをしてしまった結果事故を起こし、ジュリーを死なせてしまう。自社売却が成功するか否かの瀬戸際にあったロバートは、運転していた車がジュリーのものであることを幸いに、自らの関与を隠蔽するため、かつて世話をしたジミー(ネイト・パーカー)を迎えに呼ぶ。
ところが事故現場に捜査に訪れた担当刑事のブライヤー(ティム・ロス)は、現場に残された不自然な状況からジュリーの単独事故ではないと判断。近くの公衆電話の記録などからロバートの関与を疑い始める。
ジュリーの事故への関与を疑われるジミー、負債を隠すための二重帳簿の存在を知った娘・ブルック、自社売却のための連絡が取れない銀行の代表メイフィールド。様々な状況がロバートを追い詰めていく中、自らの生活を守るため、ロバートは起死回生の一手を打つ。
実態は火の車の会社を抱え、売却できなければ身の破滅が待っている主人公。そんな表面上は成功者を装い日々心をすり減らしていく60歳の投資家を、リチャード・ギアが熱演した。クールなミドルを演じることの多いリチャード・ギアが、虚栄に疲れ愛人に逃げ込み、自らの失敗の尻ぬぐいに奔走する情けなさを見事に表現する様は必見だ。
巨額の損失と愛人の存在の2つを隠す最初の嘘。それらの嘘を守るためにさらに上塗りされる嘘によって、徐々にロバートは追い込まれていく。長年の友人である弁護士が口にした「時間が経つにつれウソも増える。状況は悪くなる一方だ」という忠告の通りに展開していくストーリーに思わず息を飲む。
<作品データ>
原題:ARBITRAGE/邦題:キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け
2012年・アメリカ(1時間 47分)