監督インタビュー『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』

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ピーター・カッタネオ監督 © MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019

軍人の妻たちが合唱団を結成

2009年、愛する人の帰りを待ちながらイギリス軍基地で暮らす女性たちが合唱団を結成した。互いを支え合うために始めた活動はBBCの人気テレビ番組「The Choir」で取り上げられ、やがて全英中、そして世界各地へと広がるムーブメントとなっていく。

映画『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』はこの実話をベースにした作品で、5月20日より公開される。合唱団結成を主導した二人の妻ケイトとリサを、米アカデミー賞®ノミネート&英国アカデミー賞(BAFTA)受賞のクリスティン・スコット・トーマスと、BAFTAノミネート経験者のシャロン・ホーガンが演じている。

メガホンを取ったピーター・カッタネオ監督に本作に対する思いやキャスティングのポイント、合唱団が歌う80年代を中心とした有名ポップ・ソングの選曲理由などを語ってもらった。

多様なキャラクターを通じて普遍性を伝えたい

――本作は愛する人をアフガニスタンへ見送り、その帰りを待ちながらイギリス軍基地で暮らす女性たちが合唱団を結成した実話を映画化したものです。監督のオファーはご自身のどんな部分を期待されてのことだと思いましたか。またそれに対して、どう応えようと思いましたか。

コンセプトの段階でオファーされたのですが、 この作品の音楽やストーリーがリアリティーに根差しているので、“ユーモアとドラマ性のバランスをうまく表現できる”と期待されたのだと思います。

ただ、主人公たちが女性なので制作にあたっては女性の視点が入った方がいい。「自分が監督をするのであれば、脚本家は女性にしてほしい」とプロデューサーに伝え、レイチェル・タナードとロザンヌ・フリンが脚本を書くことになりました。これは結果的に正しかったと思います。彼女たちは合唱団の女性たちに聞き取りをする中で仲良くなって、いろいろなエピソードを引き出してくれました。

――女性2人に脚本を任せたとのことですが、ストーリーの基本的なところは監督が考えられたのでしょうか。

物語を語る上で、中心となる人間関係は必要です。主人公は2人の女性で、そのうちの1人は軍に入った息子を戦場で喪っている。これは私が考えました。その上でアンサンブルとなるように何人かのキャラクターが登場するという構図はみんなで考え、それをロザンヌとレイチェルが細かい部分まで掘り下げてくれたのです。リサーチをしっかり行い、事実を間違って描くことがないよう細かいところも意識して作りました。実際に基地で生活している方がご覧になったときに違和感がなかったようです。たくさんの方々から「これは自分の人生だ」などと言っていただけました。

――女性の軍人の存在や彼女の同性婚パートナーが家族として基地に住んでいることに驚きました。イギリスでは普通にある話なのでしょうか。

英国でもそんなに多くはありませんが、起こりうることであることは確認してあります。多様なキャラクターを描きたいという意図があり、そういう設定を加えました。

素晴らしいアンサンブルキャストに

――合唱団のことだけでなく、さまざまなキャラクターの重層的な人間ドラマとしても感動しました。制作にあたって心掛けたことがありましたらお聞かせください。

登場人物それぞれの変化を合唱団が1つになっていく過程にリンクさせることを意識しました。では、サイドストーリーをどこまで入れるか。最初は連続ドラマが作れるくらい長い尺でした。それを映画の尺まで削ぎ落とす工程を経ているからこそ、映画では描いていなくても人物像に深みが生まれたのではないかと思っています。

キャスティングに関しては、その人を見るだけで何となく人となりが伝わってくることを大事にしました。どの方も個性をお持ちですが、サッカーが好きな方ならそれを取り入れたりもしています。そのうえで、キャラクターの個性や本質がもっと複雑であることを観客が想像できるような表現を意識しました。この作品において、キャスティングはとても大きな意味があったのです。

――歌唱力もキャスティングのポイントだったのでしょうか。

キャストに求めたのは歌唱力ではなく、むしろ人間として自然な魅力を持っていること。見たときに役者というよりも実際に存在すると感じられることが、この作品には大切でした。キャスティングディレクターには「(合唱団で独唱をする)ジェス以外は歌がうまい人にはオファーしないように」と頼みました。アマチュアな感じのパフォーマンスを映し出したかったのです。「歌が下手なのでオーディションが受けられません」という方がいましたが、「まさにそういう人がほしいから受けてほしい」と伝えました。

しかし役者は演劇学校で歌を学んでいることが多い。8割くらいはある程度歌えて、残りの2割はかなりうまいのです。誰とは言いませんが、キャストの中には「これはアマチュアだから、もう少し下手に歌ってください」と言わなくてはいけない人もいましたが、結果的に素晴らしいアンサンブルキャストになったと思います。

――劇中で合唱団がシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」、ティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」など、80年代のヒット曲を歌います。懐かしくなって思わず一緒に歌ってしまいそうになりました。選曲のポイントをお聞かせください。

この作品を制作する上で重きを置いたのが選曲でした。Spotifyには曲が無限と思えるくらいにあるので、脚本の稿を重ねるごとにがらっと変わり、ロック中心のときもありました。それで、“ある種の制限があった方が選びやすい”ということになり、指揮者であるリサのキャラクターを「かつてバンドにいた」、「担当はキーボード」などとし、そこをスタート地点にしたところ、「電子的なサウンド」、「80年代」という設定も出てきました。

シンディ・ローパー以外は英国のアーティストです。曲調が電子的なので、合唱曲としてアレンジしたときにちょっと予想もつかない雰囲気になる。それが新鮮だと思ったのも電子的なサウンドの曲を選んだ理由です。

いろんな楽曲を選びましたが、物語のテーマに沿った楽曲を選んでいます。「シャウト」は運転しているときに80年代の曲を流すラジオを聞いていたら流れてきて、ぴったりだと思って選びました。最終的に映画として1つにまとまるような形になったと思います。実際に本作のサントラでは本物の合唱団がいくつか、映画で選んだ楽曲をカバーしてくれています。

――合唱団が練習を兼ねて、基地を出て地域の街中で歌声を披露しました。その場所に向かうとき、アフガニスタン派兵の撤退を掲げる青年を映していました。これは監督の気持ちを代弁していたのでしょうか。また今の世界情勢についてどう思いますか。

基地に住んでいるご家族が街に出かけると、反戦活動をしている一般市民の方からいろいろ言われることがあるそうです。抗議活動をしていた青年は、ロケをしていた時に実際にそういう方がおられたので登場したキャラクターです。

脚本を話し合う中で、どのくらい政治的なことを入れ込むかも考えました。軍人の妻たちが結成した合唱団の物語ではあるけれど、そこには普遍性もある。人が集まって1つになることにはものすごい力があり、誰でもこの立場になれると伝えたい。しかし、政治的になりすぎてしまうとその普遍性が隠れてしまうので、そこまで描かないという判断をしました。

ウクライナで現実に起きていることを思うときにこの作品をご覧いただくと、戦争は前線で関わっている人だけに影響を及ぼすのではなく、遠く離れている家族や友人にも影響があることを改めて実感してもらえるのではないかと思います。

<ピーター・カッタネオ監督 プロフィール>

© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019

イングランド出身。大ヒットコメディ『フル・モンティ』(97)でアカデミー賞®監督賞にノミネートされ、『DEAR ROSIE(原題)』では最優秀短編映画賞にノミネートされた。その後の映画作品には『ラッキー・ブレイク』(00)、『ポビーとディンガン』(05)、『ROCKER 40歳のロック☆デビュー』(08)がある他、最近の作品では、トム・ホランダーとオリヴィア・コールマンが主演し、BAFTAでも複数の賞を受賞したBBCのコメディ『REV(原題)』全3シリーズを手がけた。さらに、批評家に絶賛されたピーター・ボウカー脚本によるBBCの『THE A WORD(原題)』を監督した他、コマーシャル監督としても活躍している。

『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』

<あらすじ>

愛する人を戦地に送り出し、最悪の知らせが届くことを恐れながらイギリス軍基地に暮らす軍人の妻たち。大佐の妻ケイト(クリスティン・スコット・トーマス)は、そんな女性たちを元気づけ、共に苦難を乗り越えるための努力を惜しまないが、その熱意は空回りするばかり。そんな中、何気なく始めた“合唱”に、多くの女性達が笑顔を見せ始める。女性達のまとめ役リサ(シャロン・ホーガン)も、かつて慣れ親しんだキーボード・ピアノをガレージから引っ張り出し、積極的に関わり始める。

しかし、ケイトとリサは方針の違いで衝突を繰り返し、集ったメンバーたちも、美しい声を持っているのに人前で歌えなかったり、合唱を楽しむあまり音程を無視して歌ったりと、心も歌声もてんでバラバラ。担当将校も耳を覆う有り様だったが、心情を吐露するように共に歌い続けるうちに、同じ気持ちを持つ仲間として互いを認めていく。心が一つになっていくにつれ、次第に美しい歌声を響かせるようになった合唱団のもとに、ある日、毎年大規模に行われる戦没者追悼イベントのステージへの招待状が届く。思いがけない大舞台に浮足立つ妻たちだったが、そんな彼女たちの元に舞い込んだのは、恐れていた最悪の知らせだった。

取材・文:堀木三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
監督:ピーター・カッタネオ
出演:クリスティン・スコット・トーマス、シャロン・ホーガン
2019年/イギリス/英語/上映時間:112分/スコープ/5.1ch/字幕翻訳:高内朝子/映倫区分:G/原題:Military Wives
配給:キノフィルムズ
© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019
公式サイト:https://singasong-movie.jp/
5月20日(金)より全国順次公開