父が遺した火鍋店で紡ぐ三姉妹の物語『花椒の味』

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亡き父の葬儀で出会った異母三姉妹の癒しと成長の物語『花椒の味』

香港の人気歌手・俳優のサミー・チェン(鄭秀文)主演の『花椒の味』が11月5日から公開されます。お互いの存在を知らずに育ち、父の葬儀で出会った3人の異母姉妹が絆を感じながら助け合い、自分自身を見つめ直して生きていく。三姉妹の癒しと成長の物語の中で、重要なきっかけとなるのが亡き父が遺した火鍋店の承継話でした。

本作は『烈日当空』(監督)や『恋の紫煙』(脚本)を手掛けたヘイワード・マック(麥曦茵)監督が脚本も担当。香港電影金像奨を6度受賞し、2020年ヴェネチア国際映画祭で生涯功労賞の金獅子賞を受賞したアン・ホイ(許鞍華)が監督の才能にほれ込み、プロデューサーとしてバックアップしました。

<あらすじ>

香港の旅行代理店で働くユーシュー(サミー・チェン)のもとに、疎遠だった父が倒れたとの報せが入る。病院に駆け付けた時には既に亡くなっていて、話も出来なかった。

久しぶりに父リョンの火鍋店「一家火鍋」へ行き、遺品の携帯を見ていると、自分とよく似た名前があるのに気づく。葬儀の日、黒い服を着たクールなルージー(メーガン・ライ/賴雅妍)が台北から、オレンジの髪の元気なルーグオ(リー・シャオフォン/李曉峰)が重慶からそれぞれ出席し、これまでお互いの存在を知らなかった異母姉妹が初めて顔を合わせる。

すぐに打ち解けた3人は、思い思いに父との思い出を話し出す。ユーシューは火鍋店を継ごうと決意し、やがてルージーとルーグオも加わり、三姉妹で父秘伝の麻辣鍋の味を再現しようと奮闘する。

<見どころ>

誰もが心当たりのある人間関係のもつれを描く

登場人物に感情移入がしやすい映画である。長女のユーシューは父と生前、本音で向き合うことなく父が他界してしまったことを心の奥底で悔いている。次女のルージーは再婚した実母との会話がいつもぎこちなく、気持ちがすれ違う。そして三女のルーグオは母親に見捨てられた切ない思いを抱きつつ、同居する祖母の世話に勤しんでいる。

三姉妹それぞれが家族や友人たちとの間で抱える人間関係のもつれは、誰もが心当たりのあるようなものばかりだ。

大切な人に対して自分の気持ちをうまく伝えられず、時として自分の気持ちとは真逆のことをぶちまけて相手を傷つけてしまう。そんな不器用な生き方をしてきた三姉妹が父の葬儀でお互いの存在を知ったことで、それぞれの時計が動き出した…。

火鍋店の承継を通じて自分を見つめ直す

予期せぬ出会いにもかかわらず、すっかり打ち解けた三姉妹が力をあわせて取り組むのが、亡き父が残した火鍋店の再生である。火鍋店はまだ賃貸契約が残っていて、従業員もいる。ユーシューはいったんは売却しようとするが、亡き父への思いと、長年働いてきた店の再開を切望する従業員の思いを受け、火鍋店を継ぐと決意する。

しかし、慣れない客商売だけに、ユーシューは自転車操業で店の切り盛りに追われる。そんな時に、次女と三女が火鍋店に現われた。長女の苦境を聞き、店を助けるためにやってきたのだった。三姉妹の奮闘で店は活気づくが、常連客が懐かしむ亡き父の火鍋の味がどうにも出せない。

料理店の承継で最も難しい「味の継承」のためにさまざまな香辛料を使って試行錯誤するユーシューだが、ひょんなところから亡き父が火鍋の隠し味として使っていたものを発見する。

それはまさに、絶縁状態だったにもかかわらず別れた妻や娘たちを大切に思い続けた亡き父の気持ちに思いを馳せ、父を感じることができたからこそ気づけたものだった。

ルージーとルーグルもまた、火鍋店で3人が力を合わせて働くうちに、自分にとって真に大切な人の存在や、その人に伝えなければいけないことに改めて思いが至る。父が遺した火鍋店の再興は単なる事業承継を越え、三姉妹が家族と向き合い自分を見つめ直すための場となった。

劇的な出来事が起きるわけでもなく、予想を裏切る展開が用意されているわけでもない。本作はひたすら三姉妹とその家族の心の揺れを描写して、結末に辿り着く。

どこにでもありそうな日常を描いた作品だからこそ、「大切な家族との向き合い」という普遍的な問いかけがくっきりと見えてきた。観終わったあとの気分は、とても爽やかだ。

文:堀木 三紀(映画ライター/日本映画ペンクラブ会員)

<作品データ>
『花椒の味』
原題:花椒之味/英題:Fagara
監督・脚本:ヘイワード・マック(麥曦茵)
プロデューサー:アン・ホイ
出演:サミー・チェン(鄭秀文)、メーガン・ライ(賴雅妍)、リー・シャオフォン(李曉峰)
リウ・ルイチー(劉瑞琪)、ウー・イエンシュー
特別出演:リッチー・レン(任賢齊)、ケニー・ビー(鍾鎮濤)
友情出演:アンディ・ラウ(劉德華)
音楽:波多野裕介
2019年/香港/広東語・北京語/118分/シネマスコープ/5.1ch
日本語字幕:最上麻衣子/字幕協力:大阪アジアン映画祭/G
配給:武蔵野エンタテインメント株式会社

花椒の味

©2019 Dadi Century (Tianjin) Co., Ltd. Beijing Lajin Film Co., Ltd. Emperor Film Production Company Limited Shanghai Yeah! Media Co., Ltd. All Rights Reserved.

11月5日(金)より 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式サイト:https://fagara.musashino-k.jp/