マイケル・J・フォックスの十八番『遺産相続は命がけ!?』

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『遺産相続は命がけ!? 』は、大富豪の遺産を狙う親戚の争いを描くコメディドラマ。悠々自適に暮らす億万長者の老人をカーク・ダグラス、その老人に近づく又甥をマイケル・J・フォックスが好演し、重くなりがちな「遺産相続」というテーマをコミカルに描く。

あらすじ

一代で巨額の富を築いたジョー(カーク・ダグラス)は、大きな屋敷で悠々自適の独身生活を送っていた。子がいないジョーに群がる財産目当ての甥・姪を見ていたジョーは、ピザの配達にきた若い女性・モリー(オリヴィア・ダボ)を看護師という名目で屋敷に住まわせ、遺産を相続させると匂わせていた。

何者とも知れないモリーに遺産を渡したくない甥たちは、かつてジョーのお気に入りだったいとこの子・ダニー(マイケル・J・フォックス)を呼び寄せた。うだつの上がらないプロボウラーのダニーは、現役を引退し知人のボウリング場への投資を計画。大富豪のジョーから投資資金を借りられないかと期待し、親戚からの誘いに乗る。

ジョーに再会したダニーは、財産目当ての態度を隠さない甥たちに不快感を示していた。しかし金を湯水のように使うジョーの生活に触れるうちに、いつしか親戚連中同様、モリーへ遺産を渡さず自分のものにする欲望が芽生えていく。

時折弱みを見せるジョーに、ダニーは一番親身であるのは自分であるとアピール。そんなあからさまな財産への執着を見せるダニーを恋人のロビン(ナンシー・トラヴィス)は何度もたしなめるが、ついには愛想を尽かしダニーのもとを去る。しかし、

最愛の恋人を失いながらもてジョーの信頼を勝ち取ったダニーは、ついに正式な後継者に指名されることとなった。不満をあらわにする親戚連中の前で、ダニーは弁護士から財産譲渡の説明を受ける。億万長者の権利を前に笑顔を見せるダニーだったが、そこで弁護士から告げられたのは、ジョーの財産はすでに使い潰されており、借金が遺されているという事実だった。

カネに屈する弱さも愛すべき人間味

ジョーのご機嫌伺いに訪れる甥や姪は、それぞれの息子にジョー、娘にはジョーがついた名前をつけるほど、苛烈なアピール合戦を繰り広げていた。それを見るジョーは自分の財産を目当てに群がってきていると理解した上で、彼らを手のひらの上で転がしていく。

甥や姪も性格の悪いおじに遊ばれていると知りながらも、総額2,500万ドルを超える財産を相続できる可能性の前に、逆らうことはできない。登場当初は純粋にジョーとの再会を喜んでいたダニーも、ジョーが見せる富豪の遊びの前に、徐々に冷静さを失っていく。

もし自分の目の前に、数十億の資産を相続できる可能性が湧いて出てきたなら「金よりも親族としての愛情だ」といえるだろうか。たった数百万の金のせいで肉親同士が憎み合うような話を聞いていると、とても抵抗できる気にはなれない。

その点、ダニーは何度も金の魔力に身を委ねながらも、その姿を醜いと思う気持ちの間で葛藤を抱えていた。金に屈する弱さも人間味なら、それに抵抗する姿もまた人間味。何億もの財産を相続する経験をしたことはなくても、欲望と良心の間で葛藤し続けるジョーの姿に、共感を覚える人は多いだろう。

以下、ネタバレを含みます

何物にも代えがたい親の愛情

使い切れないほどの財を得たものの、独身のまま晩年を迎えたジョーは、財産目当てと知りつつも寄ってくる親戚を突き放せない。義理もないのに自分を大切にしてくれるモリーへ心を開き、他の親戚とは違う何かを感じさせるダニーへ期待を寄せるのも、すべては「誰が自分を愛してくれるのか知りたかった」に尽きるだろう。

一文無しになり無料の施療院に身を寄せたジョーの前に姿を現したのは、肉親としての愛情でジョーに接する覚悟を持ったダニーだった。ダニーは結婚を決めたロビンとの住まいにジョーを呼び寄せ、面倒を見ると宣言。そんなダニーへジョーはあてがわれた部屋が狭いと文句をいうが、ダニーとロビンは、あきれながらも笑顔で受け入れた。

巨額の富を得ながらも、ずっと孤独だったジョー。一度は離れたダニーが告げた面倒を見るという宣言は、ずっと求めていた肉親の愛情。この一言こそが、ジョーにとって何物にも代えがたい最後の財産となっただろう。

最後のどんでん返しで、ジョーの財産は健在であることを知らされたダニーとロビンは、ジョーの屋敷で一緒に住もうと招かれる。願わくは、ジョーにはこのまま愛情に包まれた余生を過ごして欲しいものである。

<作品データ>
原題:Greedy/邦題:遺産相続は命がけ!?
1994年・アメリカ(1時間52分)

遺産相続は命がけ!?