『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』

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“生涯学習”が叫ばれて久しい中、実際に意欲的に学ぶ老人はどれほどいるだろうか。『シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人』は、92歳のシャーリーと86歳のヒンダが抱いた「経済成長」への疑問を解決していく姿を描くドキュメンタリー。

大学生や経済学者に話を聞くに留まらず、大学の講座へ聴講生として潜入。さらにはウォール街へ飛び出し、経営者が集まるパーティの出席者に「経済成長とは何か」と疑問をぶつけていく。破天荒で活動的なふたりの”アラナイ”(およそ90歳)の姿を通じ、経済成長至上主義に一石を投じていく快作である。

あらすじ

シアトルの片田舎に住む92歳のシャーリー(シャーリー・モリソン)と、親友で86歳のヒンダ(ヒンダ・キプニス)は、電動車椅子に乗ってスーパーマーケットを訪れる。溢れんばかりに陳列される数々の商品を見たふたりは、「モノが増えて幸せなのか」と経済成長の必要性に疑問を抱く。

さっそくふたりは経済学の教授に質問するため聴講生として大学を訪れるが、逸る気持ちを抑えきれずに講義を中断するように質問してしまい、教授から退室を命じられてしまう。

疑問を抑えきれないふたりは、引退した大学教授や投資管理アドバイザーに話を聞くも、納得がいく答えを得られない。かくしてふたりは今経済を動かしている人々に直接疑問をぶつけるため、アメリカ経済の中心であるニューヨークのウォール街へと向かうのだった。

なぜ?と疑問を持つことからはじめよう

シャーリーは92歳、ヒンダは86歳。社会の発展には経済成長が必要とテレビ番組はうたうが、スーパーに溢れる商品の山を見たふたりは「本当に経済成長は必要なのか?」と疑問を抱きはじめる。

ふたりは本やインターネットで調べるに留まらず、数々の専門家に直接疑問をぶつけていく。子や孫に囲まれ、静かに余生を過ごせばよい年代であるはずのふたり。しかし知らないことを知りたいという好奇心に後押しされ、ついには経済の中心部であるウォール街に足を踏み入れていった。

現代を支えるさまざまな技術や知識は、人々がもつ好奇心によって発展を遂げてきた。「なぜ?」という心の声に従い突き進み続ける彼女たちの姿からは、好奇心がもつ大きなエネルギーを感じさせられる。

誰も知らない経済成長の正体

「経済は成長し続けたらどうなる」という素朴な疑問をもつシャーリーとヒンダ。質問をぶつける先は大学教授、経済学者、アナリストとそれぞれのジャンルにおける専門家ばかりだ。しかし驚くべきことに、誰に質問しても「経済成長の果て」についての明確な答えは返ってこない。世界銀行の投資管理アドバイザーにいたっては、経済が成長しなくなった結果を問われた質問に「わかりません」とさじを投げてしまった。

唯一明確な回答を持っていたのはエコロジー経済学者のジョシュア・ファーレイ氏。経済成長に頼らないシステムの必要性を説き、再生可能エネルギーの活用を主軸とする「定常状態システム」を提唱した。

しかし現代の経済界においては成長の鈍化=経済の停滞という考えが主流であり、再生不可能資源の消費が進んでいる。ファーレイ氏はこの後戻り出来ない状態を「崖に向かって進む自動車」に例えた。

誰もがリスクに気づきながらも、実際に崖から落ちてみるまで経済破綻の可能性を直視していない。作中冒頭に登場したアルバート・バートレット教授による「1秒ごとに倍増するアメーバが瓶から溢れると気がつくのはいつ?」の質問は、経済破綻の瞬間を例えたものだった。

例え話の回答は明示されなかったが、それゆえに自ら経済について考えるきっかけとなるはずだ。

文:M&A Online編集部

<作品データ>
シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人
原題:Two Raging Grannies
2013年/ノルウェー・デンマーク・イタリア合作/82分

シャーリー&ヒンダ