経済や金融業界のリアルな姿を垣間見たいのなら、映画がおすすめ! 特に本を読むのが苦手な人や異業種で働く人には、映像で見るのは分かりやすく、2時間程度なので手っ取り早い。実話をベースにした作品もあるので、世の中の経済事件を理解するのにも一役買ってくれる。多少専門用語も出てくるものもあるが、映画をきっかけに勉強してみるのもおすすめだ。エンターテインメントとしても楽しめる、おすすめの1本を紹介する。
マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオがタッグを組んだ5作目。株式ブローカーのジョーダン・ベルフォートによる回想録「ウォール街狂乱日記 『狼』と呼ばれた私のヤバすぎる人生」を映画化した。ディカプリオは、この映画の製作権利をブラッド・ピットと競り合ったそうだ。本作でディカプリオはゴールデン・グローブ賞 主演男優賞を受賞。この狂気に満ちた迫真の演技は、アカデミー主演男優賞にもノミネートされた。3時間の大作であるものの、スピード感ある展開で長さはあまり気にならないはずだ。
舞台は1980年代から90年代のニューヨーク、ウォール街。一攫千金を狙うジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は大手証券会社に入社するも、トレーダーとしての初日がまさかの「ブラックマンデー」(1987年10月19日)で失業してしまう。1株1ドル以下だが手数料は50%というペニー株を扱う小さな証券会社に再就職して荒稼ぎをし、26歳で独立。ドニー・アゾフ(ジョナ・ヒル)と共にストラットン・オークモント社を立ち上げ、ペニー株を金持ち相手に売りさばき、非合法なやり方で巨万の富を築いていく。稼いだ金を派手に使い、ドラッグにセックス三昧の狂乱の日々を送っていくが……。
冒頭のマシュー・マコノヒー演じる凄腕証券マンのランチでの奇行っぷりは、まさに序章。ウォール街の証券マンが日々の数字を相手にどれだけ追い込まれ、緊張状態で働いているのかがうかがえる。彼から株屋のルールを学ぶジョーダン。その第1のルールは、客に繰り返し投資をさせて書面上で金持ちになったと思わせておきながら、取引を重ねることで株屋である自分たちはしっかりとリアルな金“手数料”をとっていくというもの。そして株屋で成功する2つのコツは「常にリラックスする」「コカイン」だとも教わる。まるでその後のジョーダンの人生を予感させるようなアドバイス。映画で「fuck」という言葉が500回以上使われているのも、そんな株屋の精神不安定さを象徴するかのようだ。その使用回数は、ドキュメンタリーでない映画で史上最多だという。
「このペンを売れ」とジョーダンからペンを差し出されたドラッグの売人ブラッド。普通ならばそのペンのセールスポイントをアピールするのだろうが、「そのナプキンに名前を書け」とジョーダンに言い放つ。しかし、ジョーダンはペンを持ち合わせていない。すると「需要と供給だ」とブラッド。ジョーダンはブラッドのペンを買うしかないのだ。必要性を作り、買わなければならないと相手に思わせる。需要と供給をマッチさせることがセールス術の基本の一つであると改めて気づかされるワンシーンだ。
巧みな話術でウォール街のカリスマへと成り上がっていくジョーダン。金、女、セックス、ドラックと、欲と快楽にまみれた人生は、真実とはいいがたいほどだ。かなり誇張して脚色されているのかと思いきや、ほぼ事実だというからすごい。妻の名前をつけた豪華クルーザーを無理やり出航させて沈没したのも、難破で命の危険にさらされながらもドラッグを取りに行かせたのも真実。1万ドルと引き換えに女性社員の頭を丸刈りにしたのも真実。他にもハチャメチャな真実があるので、回想録やインタビュー動画などと照らし合わせてみるのも面白い。ちなみに、映画の最後、講演会らしきシーンでジョーダン・ベルフォート本人がカメオ出演している。自分のことを自ら「最高の悪党」と紹介するブラックユーモアたっぷりのシーンも見ものだ。
文:M&A Online編集部