経済や金融業界のリアルな姿を垣間見たいのなら、映画がおすすめ! 特に本を読むのが苦手な人や異業種で働く人には、映像で見るのは分かりやすく、2時間程度なので手っ取り早い。実話をベースにした作品もあるので、世の中の経済事件を理解するのにも一役買ってくれる。多少専門用語も出てくるものもあるが、映画をきっかけに勉強してみるのもおすすめだ。エンターテインメントとしても楽しめる、おすすめの1本を紹介する。
家庭用ビデオ「VHS」の開発、そしてソニーの「ベータマックス」との規格競争の裏側を描いた1作。「VHSの父」「ミスターVHS」とも呼ばれる高野鎮雄をモデルとし、実話をベースに脚色。社名は実名で登場し、高度経済成長に陰りが見え始めた日本経済を背景に、サラリーマンたちがリアリティあふれる姿で描かれている。
1970年代半ばの日本が舞台。日本ビクターで開発技術者として働く加賀谷静男(西田敏行)は、突然、不採算事業であるビデオ事業部の事業部長に任命され、横浜工場へ赴任となった。事実上の左遷、そしてビデオ事業部での大幅なリストラを押しつけられた加賀谷だったが、誰一人辞めさせたくないと心に誓い、成功すれば5000億円のビジネスになるという家庭用ビデオの開発を部下たちと共に始める。しかし、ソニーの家庭用ビデオ「ベータマックス」に先を越されてしまい、後発となった日本ビクターの「VHS」の存在は危ぶまれてしまう。
加賀谷は、ビデオ事業部の立て直しの一環として販路拡大のために部下の江口(緒形直人)を通訳代わりに引き連れてニューヨークを訪れる。江口がいくら英語で掛け合おうが値引きなしには契約できないという交渉相手に、加賀谷は“飲みニケーション”で値引きなしで契約を成立させてしまう。最後は野球拳で大盛り上がりと、上手くいきすぎな感じではあるが、最近は飲みニケーションに否定的な考えがある中で、加賀谷のように人間力(あるいは人たらし的な魅力)を養うには実はいい方法なのかもしれないと思わせる場面だ。
松下電器産業相談役の松下幸之助に直談判するため、大阪へと向かうシーン。渡辺謙演じる事業部次長の大久保と加賀谷が静かに熱く語り合う。大久保が学生時代に山を登る度に持っていった詩集から詩の一節をそらんじると、加賀谷はVHS開発のプロジェクトを“山”に例え、最後までその山を登る決意をかためる。逆境でもあきらめない男たちの思いに胸が熱くなる場面だ。特に、映画冒頭では事なかれ主義だった大久保が加賀谷の背中を押すほど仕事への情熱を抱くようになっている姿は感無量。人を変えるのは人、そして人を動かすのも人なのだと思い知らされる。
VHSとベータマックスの争いにおいて、大きな発言力があった松下幸之助。というのも、当時最大規模の販売網を持つ松下電器産業がVHSにつくか、ベータマックスにつくかは規格統一にも影響するからだ。
映画では、そのことを象徴するかのように、加賀谷と大久保が松下幸之助にVHSの良さを直接訴えるシーンがある。この直談判は実際の話だという。ベータマックスが1時間録画なのに対し、VHSは2時間録画を基本としていたことも規格競争に勝利した大きな要因の一つだが、松下幸之助が独自の経験から抱いていた「持って帰れる品物は配達してもらう品物の10倍は売れる」という考えも小型で軽量のVHSに有利に働いたといえよう。こうして松下幸之助に「ベータマックスは100点満点の機械だが、VHSは150点や」と言わしめた。
余談だが、今年3月に「Victor」ブランドが復活するとの一報が報じられた。日本ビクターは、2008年にケンウッドと経営統合し、2011年には現在のJVCケンウッドとなった。2016年6月に新たな経営体制が発足したこと、そしてその年の10月には合併から5周年、さらに同年12月にはケンウッド70周年、今年9月にはビクター90周年というさまざまな節目を迎えるにあたり、従来の「JVC」と「KENWOOD」に加えて「Victor」ブランドを再定義、復活するとのことだ。第一弾として、この5月にも新技術を備えたオーダーメイド型のヘッドホンを発表する予定。果たして、VHSのようにビクターを照らす陽はまた昇るのか。今後の動向も気になるところだ。
文:M&A Online編集部