「マージン・コール」(2011年)|一度は見ておきたい経済・金融映画&ドラマ<3>

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経済や金融業界のリアルな姿を垣間見たいのなら、映画がおすすめ! 特に本を読むのが苦手な人や異業種で働く人には、映像で見るのは分かりやすく、2時間程度なので手っ取り早い。実話をベースにした作品もあるので、世の中の経済事件を理解するのにも一役買ってくれる。多少専門用語も出てくるものもあるが、映画をきっかけに勉強してみるのもおすすめだ。エンターテインメントとしても楽しめる、おすすめの1本を紹介する。

「マージン・コール」(2011年)

マージン・コール

舞台はニューヨーク、ウォール街の大手投資銀行。リーマン・ショックをモデルに、世界的金融危機が始まるまでの24時間を描く。日本では劇場未公開となったが、ケヴィン・スペイシーやジェレミー・アイアンズ、ザカリー・クイントら豪華キャストが揃う作品だ。アカデミー賞脚本賞ノミネート。

【あらすじ】

大量リストラの対象となった上司から「引き継いでほしい仕事がある。用心しろ」とUSBを手渡された若手社員のピーター(ザカリー・クイント)。そこにあるデータを分析してみると、会社の総資産価値をも上回る巨額損失の可能性を発見する。損害リスクが非常に高い不動産担保証券(MBS)を大量に保有していたのだ。8兆ドルもの資産を守るべく、重役たちは市場にばれないように全てのMBSを売り払うことを命じる。

【見どころ】

大手投資銀行にマージン・コール

「マージン・コール」とは、信用取引や外国為替証拠金取引などにおいて証券会社などの取引業者に預け入れた担保である委託証拠金に一定の損失が生じた際に、取引業者が顧客に通知すること。顧客は、証拠金を追加するか、決済するかの選択を迫られる。いわば、大きな損失が出るやもしれないイエローカードのようなものだ。本作では、投資家らにマージン・コールをする立場の投資銀行が逆にマージン・コールを突き付けられる形になっているのが面白い。

意思決定のスピード

ピーターが巨額損失の可能性を直属の上司に報告したのが22時過ぎ。そこから、その話は次々と会社の上層部へと伝わっていく。会社の命運がかかった重要事項であるということもあるが、2時ごろには各所の部長クラスとの話し合い、早朝にはCEOをも交えた重役会議で対策を決定するという意思決定の早さ。時間的なスピード感があるのにも関わらず、物事が静かに淡々と進んでいく様子は、これから起こるであろう嵐の前の静けさともいえる。

垣間見える資本主義の闇

平社員からトップまで投資銀行で働く様々な立場の人々が、危機的状況を前にどのようにふるまうのかがリアリティを伴って描かれている。いずれも資本主義という枠組みの中で金に翻弄される人間ばかりだ。若手社員でも年収25万ドルという高額報酬のせいか、上に行けば行くほど感情に流されずに冷徹に己の利益を追求している構図が興味深い。それが徹底できない者たちは課長、部長どまり。その中で、ケヴィン・スペイシー演じるサムは、ちょうど中間に位置しているといえる。重役たちの非情な決定にも倫理観を持って反発するが、金を前に結局抗えない。そんなサムの複雑な気持ちを集約したラストシーンに、人間の業の深さを感じずにはいられないはずだ。

文:M&A Online編集部