【2022年】今年最もヒットした映画は? 興行収入ランキング

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2022年の映画業界を振り返る

早いもので、今年も残すところあと数日となりました。M&A Onlineでは、筆者の100%独断による「おすすめベスト5作品」を毎月紹介していますが、本コラムをきっかけに映画館へ足を運んだという声もちらほらといただき、感謝しております。

年内最後のコラムとなりましたので、2022年の映画業界を興行収入ベスト10作品とともに振り返ってみたいと思います。

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2020年、2021年の映画興行はコロナ禍の影響をもろに受けて休館、動員制限、営業時間制限のトリプルパンチを受けてしまいました。これは映画興行に限ったことでないのですが、多くのエンタメ産業はどん底を味わったのではないでしょうか。

新型コロナの影響についてはまだまだ予断を許さない部分もありますが、感染症との付き合い方が変わってきたことで、興行もだいぶ上向いてきたといったところだと思います。トム・クルーズやブラッド・ピットなど海外スターの来日も解禁になり、エンタメならではの華やかさが戻ってきました。

2022年映画の興行収入トップ10を紹介する前に、ランキングについてひと言触れさせていただきます。

ちょっと面倒なのですが、映画業界のお決まり(ルール)として、公式に発表される興行収入ランキングは、その映画の興行が”終了した年”の映画としてカウントされるため、今回紹介するランキングと実際に発表されるランキングとは違う部分があります。あくまでもM&A Online独自の映画ランキングとしてご承知おきください。

『ONE PIECE FILM RED』、『すずめの戸締まり』、『THE FIRST SLAM DUNK』の3作品については越年の可能性が大きく、発表ソース、媒体によっては来年の作品としてカウントされる可能性があります。

2022年興行収入ランキングトップ10

そのうえで、興行通信社より発表された12月19日時点の数字をもとに、M&A Online独自にランキングTOP10を作成しました。興行収入の一部に関しては、興行通信社発表による推定値も含みます。

●1位:『ONE PIECE FILM RED』興行収入186.7億円(暫定)

東映史上初と言いますか、単独配給邦画としては初となる興行収入100億円を突破した作品となりました。東映は2021年に東宝・カラーとの共同配給で『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で100億円を超える興行収入を記録しましたが、東映単独の配給作品では初めてです。

ONE PIECE FILM シリーズはこれまでも平均して50億円前後の興行収入を稼ぎ出していましたが、過去の作品を大きく上回るまさかまさかのビッグヒットとなりました。年末の紅白歌合戦で「ウタ」が出演することもあり、2023年もONE PIECE FILM REDの公開が続くのではと予想されます。

2位:『劇場版 呪術廻線0』興行収入138億円

公開日は2021年12月なのですが、2022年5月に公開終了となったため、2022年の映画としてカウントされます。

興行収入138億円は見事な数字と言えますが、個人的には公開前のセールスポイントで興収404億円を記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の後継という位置づけだったことを考えると、ちょっと物足りなさを感じてしまう自分がいます。映画のヒットは実際の数字だけでなく、何を基準にするかで捉え方が変わってきますね。

3位:『トップガン マーヴェリック』興行収入134.8億円

この作品の大ヒットは業界を驚かせました。トム・クルーズというネームバリューのあるスター映画ではあるものの、30年以上前の映画の続編にどこまで興行力があるのかは未知数でした。しかし蓋を開けてみれば日本でも大ヒット、2019年の『アラジン』以来となる実写洋画100億円突破作品となりました。

近年、北米地区で苦戦が続いていたトム・クルーズの主演作が同地区でも破格のヒットを記録し、全世界の興行収入では14億9000万ドル(約1967億円)を稼ぎ出しました。

ちなみに日本国内のトム・クルーズ最大のヒット作は、『ラスト・サムライ』(日本での興行収入は137億円、観客動員数は1410万人)です。

4位:『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』興行収入97.4億円

東宝が誇るドル箱シリーズの名探偵コナン。すでに新作『黒鉄の魚影(サブマリン)』の公開が2023年4月14日に決定しています。

コロナ禍の影響を受けた2021年公開の『緋色の弾丸』は興行収入76.5億円と数字を落としましたが、コナンシリーズはファンが卒業しないのが特徴で、基本的には興行収入は右肩上がりが続いています。

あとは興行収入100億の大台突破という悲願を達成するだけといった感じですね。

5位:『すずめの戸締まり』興行収入85.9億円(暫定)

公開からわずか1カ月強で年間5位にランクインしてきた新海誠監督の最新作。『君の名は。』『天気の子』が共に興行収入100億円を超えるヒットを記録していることを考えると、『すずめの戸締まり』も100億円の大台突破が確実視されています。

3作品連続で興行収入100億円突破となれば、宮崎駿監督以来の偉業達成となります。

6位:『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』興行収入63億円(推定)

シリーズ全体としては6作目にあたり、ジュラシック・ワールドシリーズ3部作としては完結篇になる本作。興行収入63億円はシリーズとしては『ジュラシック・パークⅢ』の51億円に次ぐ低い数字となりました。

ただ実写洋画作品の苦戦が続いている中では、合格点と言えるでしょう。

7位:『キングダム2 遥かなる大地へ』興行収入51億円(推定)

日本製武侠映画のシリーズ第2弾。前作『キングダム』(57.3億円)に続いて興行収入50億円を突破しました。原泰久の漫画「キングダム」連載も続いていて、根強いファンの存在を感じさせます。

壮大なスケールを実写化するため、中国での大規模ロケなど人手も時間もお金も掛かる作品をこのようにシリーズ化して作ることができるのは、圧倒的な興行力を誇る東宝だから。3作目の公開(2023年夏)も正式に発表されました。

8位:『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』興行収入46億円(推定)

興行収入46億円という数字だけを見れば大成功の部類に入るのですが、『ハリー・ポッターと賢者の石』(203億円)から続くハリポタ作品としてみると、かなり寂しい数字です。

ハリー・ポッターをベースにした作品群を「魔法ワールドシリーズ」と称するのですが、これまでに「ハリー・ポッター」8作品、「ファンタスティック・ビースト」2作品が公開されています。

魔法ワールドシリーズは”ファミリー向け”という要素が重要なのですが、「ファンタスティック・ビースト」が回を増すごとに物語が重くなっていて、観客が求めるイメージと実際の作品が持つメッセージとの乖離が徐々に集客に響いてきたなという印象です。

9位:『ミニオンズフィーバー』興行収入44億円(推定)

興行収入44億円は、“ミニオンズ”というキャラクターの日本での浸透度がわかる数字ですね。

日本でもブランド力が強い海外のアニメスタジオといえば「ピクサー・アニメーション・スタジオ」(米)がありますが、SING/シングやミニオン(怪盗グルー)シリーズを擁する「イルミネーション・エンタテインメント」(米)も徐々にですが国内での存在が高まってきています。

9位(同):『シン・ウルトラマン』興行収入44億円(推定)

こちらも公開前の熱量からすると、『シン・ゴジラ』が82.5億円、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が102.8億円の興行収入だったので、もう一声欲しかったですね。

ウルトラマンの3部作構想や2023年3月公開予定の『シン・仮面ライダー』の前哨戦という位置づけでみると、この数字がどういう意味合いを持つのでしょうか…。

ランキング外(トップ10以下):

以下『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、『SING/シング:ネクストステージ』、『余命10年』、『コンフィデンスマンJP英雄編』、『沈黙のパレード』と続きます。

この中では『余命10年』のヒットはサプライズでした。2021年も『花束みたいな恋をした』が38.1億円のヒットを記録しましたので、年に一本ぐらいはこういう邦画ラブストーリーのヒットが続くことを期待しています。

アバター続編が意外と苦戦

12月3日に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』が破格のスタート切り、早くも公開16日間で興行収入41億円を超えて来ました。興行収入100億円超えも見えてきており、年内の数字だけでもTOP10に入る可能性があります。

また年内の数字だけでどこまで行くかわかりませんが、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『Dr. コトー診療所』が12月16日に公開となり、こちらの2作品の動向も気になるところです。

ちなみに12月17-18日の週末2日間の興行収入をみると、前作の『アバター』は世界歴代興行収入第1位(27億8970万ドル)、国内だけで156億円を稼ぎましたが、続編の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の週末興収が4.7億円、動員数25.9万人と、一見数字は大きいものの、全国の映画館で約4割の1466スクリーンを使ってこの数字とは、正直非常に厳しいです。

しかし『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は、通常スクリーンではなく、IMAXやドルビーサウンド、4Dなどで楽しみたいという要望が多く、プレミアスクリーンでは満席待ち状態が続いているという声もあります。

一方でドラマ版の続編を16年ぶりに描いた『Dr. コトー診療所』は、週末興収3.2億円、動員数23.5万人と『ラーゲリより愛を込めて』対比で興収133%、動員132%ですから、なかなかの健闘ぶりと言えるでしょう。

2022年の映画興行を総括する

2022年の映画興行は明らかに底を打った感はあるのですが、大ヒット作品と全くヒットしない作品との二極化が進んでしまったというのが正直な感想です。

作品によっては1日に30回以上の上映回数で「間違いなくヒットするだろう体制」が確保されているものもあれば、その余波を受けて公開初週から上映回数・上映規模に制限がかかってしまう(割を食ってしまった)作品も少なくありませんでした。

観客の熱量とは別の基準でヒットするかどうかの線引きが進む形で映画興行が盛り返してきているようにも感じます。コロナ禍では資金力が大きい製作・配給会社に助けられた面が大きかったですが、東宝一強体制があまりにも進んでしまうと、日本の映画産業界にとって健全な形になれないのではないかと心配するところもあります。

100億円台の大ヒット作も必要ですが、本音を言えば10~30億円ぐらいの中ヒットが常時公開される状態の方が映画館は賑わうのです。

インディペンデント系作品も含め、中ヒットが出にくくなる現状はあまり歓迎できません。

国内より海外での評判が高かった『ドライブ・マイ・カー』の様に、国際的に高い評価を受けた作品に対して、受け皿をちゃんと確保するべきだと思いますし、興行側の使命であるとも思っています。

文:村松健太郎(映画文筆屋)/編集:M&A Online編集部