【ミクシィ】潤沢な軍資金が向かう先は?

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画像はイメージです。

招待制SNSにも関わらず、わずか7カ月で登録者数100万人を超えたmixi。SNSのコンペティターに苦戦しながらも、「モンスターストライク」のメガヒットで財務状況は一変する。そして次なる一手は……。

7カ月で100万人を超えるも
Facebook、Twitterに苦戦
「mixi」(ミクシィ)の運営で国内のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)黎明(れいめい)期を席巻したミクシィ<2121>。SNSの運営会社として名をはせる同社の源流はBtoB(企業向け)にある。

 求人情報サイト「Find Job !」やプレスリリースの代行サービス「@Press」(アットプレス)を行っていた同社が新たな展開を模索する中で、海外において当時流行し始めた「Friendster」(フレンドスター)などのSNSサービスに着目、社長自らそれを体験し、大きな可能性を感じることとなる。

 よりコミュニティー機能を強化した自社製のSNSが世間に浸透すれば、日本社会に強烈なインパクトを与えることができ、同時にビジネスとしても大きな収益を上げることができるのでは、とのもくろみからmixiの提供を開始する。

 その目算は当たり、招待制のSNSにも関わらず登録者数はわずか7カ月で100万人を超えた。その後も順調に登録者数を伸ばしてきたが、その後、海外から参入した「Facebook」や「Twitter」に苦しめられることとなる。

■ミクシィの業績推移


ユーザー離れと広告収入の減少
現状打開策としてのM&A戦略

 上図を参照いただきたい。売上高は、2013年3月期までは右肩上がりだったが、経常利益、純利益については一貫して緩やかに落ち込みを見せていた。ユーザーが離れると同時に、利益率の高い広告収入が減少したためだ。スマートフォン向けにmixiのアプリを開発するも、ユーザー離れは止まらなかった。

 ミクシィが行ってきた現状打開策の一つがM&Aだ。自社の事業領域とシナジーの見込める先、事業拡大が見込める先に早期に資金投入し、

成長を促すアグレッシブな投資が多いのが特徴だ。

■ミクシィが行った主なM&A

年月 内容
2006.2 前身のイー・マーキュリーより社名変更
2006.9 東京証券取引所マザーズ市場に上場
2009.4 ソーシャルアプリケーションの企画・製作を行うコミュニティーファクトリーの株式20%を第三者割当増資により2000万円で取得
2009.9 ソーシャルアプリケーションの企画・製作を行う「空飛ぶ」の株式18%を第三者割当増資により2520万円で取得
2009.10 SNS向けコンテンツ開発のPikkleの株式20%を第三者割当増資により1億3900万円で取得
2011.9 携帯アプリ開発のネイキッドテクノロジーの全株式を買収
2011.10 「空飛ぶ」の株式をサイブリッジに譲渡
2011.11 スマートフォン向けアプリの企画・開発を行うコニットの全株式を1億2000万円で買収
2012.4 Pikkleの所有株式をKlabに売却
2012.5 ネイキッドテクノロジーの株式をサイブリッジに譲渡
2012.11 コニットの株式をサイブリッジに譲渡
2012.11 ポイント・プログラム・サービスの「ネットマイル」のサービスを運営するネットマイルが、「ネットマイル・リサーチ」事業を会社分割する新会社の株式取得
2012.12 スマートフォン向けソーシャル・ネットワーキング・サービスの企画開発を行うkamadoの全株式を4100万円で買収
2013.5 学習管理系サービスの提供を行うクラウドスタディの株式を第三者割当増資により7200万円で取得
2013.5 少人数向けのSNSを提供するREVENTIVEの株式を取得
2013.10 LINEが結婚支援事業を会社分割し設立した新会社(売上高15億6000万円)の全株式を10億9000万円で買収
2013.10 「街コン」(「街」と「合コン」をつなげた造語)イベントの運営を行うコンフィアンザの株式取得
2013.10 不動産ポータルサイト運営のiettyの株式を第三者割当増資により取得
2013.10 ウェブ・マーケティング事業のイトクロよりショッパーズアイ事業を会社分割により譲受
2014.1 ミクシィ・マーケティングの広告プラットフォーム事業をアイスタイルに事業譲渡
2014.2 印刷のEコマース事業を営むラクスルの株式を第三者割当増資により取得
2014.5 台湾のインターネット人材紹介サービスのLOYAL SUN HOLDINGSの株式を第三者割当増資により取得
2014.8 スマートフォン向けニュースアプリなどを運用するスマートニュース株式を第三者割当増資により取得
2015.2 女性向けファッション・コマースサイト運営のミューズコー(売上高8億円)の株式を17億6200万円で追加取得し、完全子会社化(完全子会社化前の出資比率は6.3%)
2015.3 チケット・フリマ・サービス運営のフンザ(売上高5億円)の全株式を115億7300万円で買収


若い企業の買収と
その一方での売却

 13年10月に行った、「LINE」(ライン)の結婚支援事業部を会社分割し、新設会社を買収したように、ある程度売上規模がある前提で買収に踏み込むこともあるが、買収先の大多数を占めるのは設立間もない企業が多い。

 自社のソーシャル・ネットワーキング・サービス業界における圧倒的な基盤を機軸に、時代の流れ、一般消費者の需要を先取りし、ミクシィのサービスに付加価値を付けたり、買収先のサービスに同社がシナジーを付け加えたりという手法でM&Aを行っているようだ。

 一方で、売却も積極的に行っている。
 09年10月に約1億4千万円の第三者割当により、株式の20%程度を保有したPikkleについて、12年4月にはKLabに持ち株分を譲渡している。
Pikkleは直近の業績も赤字と厳しかったが、KLabによるPikkleの買収は撤退に当たると言えるだろう。

 しかし、赤字会社でありながら、業界を取り巻く開発者不足の解消を目的とした買収であり、(出血は伴うが)手当てをした上での撤退ができている。


14年度の増収、増益と
「モンスターストライク」のメガヒット

 直近の決算を見てみると、スマートフォンの特性を生かしたアクションRPGゲームアプリである「モンスターストライク」の大ヒットによる影響が強く見られる。まさに、メガ・ヒット・スマートフォン・アプリの爆発力を顕著に表した売上高・利益率の伸びだと言える。

 このメガヒットに伴い、14年3月末の178億円だった現預金は15年3月末には650億円までに膨れ上がった。今後、この潤沢な資金を元にさらに積極的なM&A、事業基盤の強化に乗り出していくものと推察できる。

 その先駆けとして、直近にM&Aを行ったチケット・フリマ・サービスを運営するフンザの買収では、直近期の売り上げ予測が約5億円に対し、株式取得対価として115億円も投じている。

 チケット・フリマ・サービス産業への本格的参入がこのM&Aの目的となっているが、この大胆なバリュエーション(投資の価値計算や事業の経済性評価)をひもといてみたい。

 ポイントは大きく分けて3点あると考えられる。①フンザは、売上高が前年比603%とかなり急成長を遂げていること、②アクセスの大多数がスマートフォンブラウザからのもので、対応アプリからのアクセス率が15%と未熟であること、③14年度に400億円程度のチケット・フリマ・サービスのマーケットが5年以内に800億円近くなると予想されること。この3点を前提として、ミクシィが持っているノウハウ、顧客基盤を駆使すれば、3年以内にマーケット・シェアの50%を獲得、専有できると考えているためである。このM&Aは、これまでのミクシィのM&Aの中で、売り上げとしては、さほど大きなものではないが、買収価額としては突出して高額である。

株価上昇を利用した資金調達
一時の苦境をはねのけ脱出

 その影響もあって、ミクシィの15年3月期の連結決算では、のれんが約141億円に達している。これは、総資産の13%、純資産の26%に当たる。フンザの業績が想定どおりに推移せずに減損処理を迫られたとしても、屋台骨が揺らぐような水準ではないと言えるだろう。

 ミクシィは、「モンスターストライク」のメガヒットにより、上昇した株価を利用し、13年4月1日に株式上場以来のエクイティファイナンスを行い、約60億円を調達。さらに、15年7月には海外投資家向けに公募増資(自己株式処分を含む)を行い、173億円を調達した。この資金のうち133億円はミューズコーとフンザの買収時の借入金返済に充て、残りの約40億円はエンターテインメント事業に関する広告費に投じるとしている。

 一時の苦境をはねのけ、一転して現在は軍資金が潤沢な状況である。今後、M&Aを含めて、どのような経営手法を繰り出すのか楽しみである。

まとめ:M&A Online編集部

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。